暗がりの中であなたを待つことが多かった。

　灯が落ちた商店街の花屋の前だったり、
　誰もいないクーラ・ネイフスの学舎の裏手だったり、
　看護婦も眠ってしまった頃合いの病院のベッドだったり、
（真夜中の納屋だったり！）
　あなたは驚くほど厳格な家に生まれ育ったから仕方のないことだった。
　一緒になってからもその窮屈さは続いたけれど、それほど気にはならなくて。

　あなたはいつだってひょろひょろと笑っていたし、
　雲のきざはしを風のちからに換えるやり方だとか、
　木や蔦や鳥をうまくベランダへといざなうやり方だとか、
　他にも色んなことをわたしに教えてくれた。
　この世と界のことわりを話すあなたはほんとうに楽しそうで、
　わたしはただ、あなたの笑顔を見られればそれで良かったのかもしれないな。

　縁の黒い幅広の眼鏡に、癖のついたはしばみ色の髪がよっかかっていて、
　わらうと犬みたいなんだ。


　暗がりの中であなたを待つことが多かった。

　それはきっと今もなんだ。
　赤黒くうねるどろどろとした流れの中にわたしはいる。
　膝を抱えてただ待っていた。
　あなたの声。
　もうけして聞かれないかもしれないあなたの声を。

　一度躰を得たことで、わたしの声を、手を、胸を、少しの時間にせよ、わたしだけのものにしたことで。
　（しかも、てんで「ぽんこつ」だった昔のそれと違って、跳ねる、飛べる、笑える！）
　忘れていたいろんなことを、全部思い出してしまって。
　もうただのひかりのうねりには戻れない。
　やるべきことがあって、それだけが意味と価値を持った。
　まるで夜の帳みたくわたしの心を縫いとめているんだ。


　モック・フレンズマニー。
　わたしとあなたの子供。


　暗がりの中であなたを待つことが多かった。

　それはきっと今もなんだ。
　青白くゆれるぎらぎらとした光の前にわたしはいる。
　声をあげて泣いている。
　聞こえてるのかなあ？
　こんなにも遠く離れてしまったんだ。
　あなたが生きているのかどうかも分からない。
　もうけして届かないかもしれない。
　けれど、あなたの名を呼ぶ。

　応えて。

　ネイト・フレンズマニー。

















　「わたしの愛しいひと。」











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（大いなる人よ、どうぞ今この人の仔に、小指の先ほどの愛、）