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「かかん、にーちゃん、」

「……、」

「……何処、行っちゃったんだろ」

「……さあな」


きっと誰も知らない。
そこに居た形跡だけが確かで、その行方は誰にも分からない。


「……モンスターに、襲われたのかな」
「どうだろうな」
「……なあ、シズはさ、」

寝台に寝転んでいたルカが上体を起こし、不満そうな顔をする。
ムッとした、何か、言いたげな。

「かかんにーちゃんのこと、……心配とか、無えのかよ」
「しても仕方無いだろ」
「……だって、オレ達、いっぱいお世話になったじゃんか」
「……、」

そんなことだろうと思った。
（元々、人懐っこいのもあるだろうが）ルカは随分、あの二人に懐いていたように思うし、ルカだけじゃない。
アリシアも、相手が大人だということもあったからか、頼りにしていたし、信頼していたし、自分達と比べると、二人に対するアリシアは、比較的、素直だったなとも思う。

「シズだって、色んなこと教わっただろ」
「……」
「……なのに、──」
「さっきも言ったろ」

たまたま、行き先が同じだっただけだ。
助けてほしいと言ったわけでも、一緒に行動させてほしいと頼んだわけでもない。
向こうが勝手に世話を焼いて、向こうが、勝手に。

その程度だ。
他人との、短く、些細な繋がりだ。
そんなものだった。

「仕方無ぇだろ。 あの二人には、あの二人の何か、事情があるんだろうし」
「……何かって何だよ」
「知らねぇよ、他人の事情にまで首突っ込んでられるか」
「っ……そんな言い方、」

アリシアはやさしい。
きっとルカと同じような反応をするだろうし、ルカもやさしい。

いや、

ルカは、違うか。

「散々探して見付からなかった、それに……何が遭ったにせよ、何も言わずに居なくなった」

別れの挨拶の一つでもあれば、こんな遣り取りもせずに済んだのだろうと思う。
それでも、

「向こうが俺達に関わられることを避けた結果だ、下手に関わって相手に迷惑掛けたくねぇだろ」
「ッそうだけど、」
「俺達を巻き込まないように気を遣ってくれたんだとしたら？」
「……っ、……」

血を見るような、そんな事情だ。
自分達が“子供”だったからかは兎も角、あの二人（特に男の──花冠と名乗った方）が、日頃から気を遣ってくれていたことはルカにも分かったんだろう。
戦線において、ルカをアリシアと同じ立ち位置まで下がらせ自分達が前に立ち、戦う。
そうやって守ってもらっていたことは、ルカにも分かるのだから、アリシアだって、きっと。

白いシーツの上で、ルカが握り込む手の力を強めたのが分かった。

「……あの二人に世話になったことを否定する気は無ぇよ」
「…………」
「ただ、遅かれ早かれ、別れることはお前にだって分かってたろ」
「……、」
「他人の心配してる暇あったら自分の心配しとけ」

また何処かで会うことがあるかも知れない。
根拠も何も無い“いつか”を馳せるのは好きにすればいいだろうけれど。

「もう居ないんだからな、あの二人は」

いくらルカが馬鹿だとは言え、それが分からないワケが無い。
アリシアを守るのはお前なんだと、今更、言う必要だって。





寂しくないと言えば、うそになる。
話したいこと、聞きたいことは今になって、たくさん浮かんで、消えていく。
いつかは別れなきゃならないことも分かってはいたけれど、二人と一緒に居るアリシアは、自分達──自分と一緒に居る時よりも、安心しているように見えて（しまって）、だから、出来れば、そんな“いつか”なんて来なくたっていいやって、来ない方がいいんじゃないかと思っていたことも確かで。

子供だから、なんて理由で守ってもらえていることを、そんなのは甘えなんだってことも分かってはいた。
レーヴの力は自分の身を、アリシアの身を守る為にある筈で、だから、だから。


「……かかんにーちゃん、ひとり、なのかな」
「……、」
「……さみしく、ねえのかな」
「知らねぇよ、そんなこと」

きっとひとりだ。
それに、

「……フィンさんは、かかんにーちゃんのこと、探しに行ったのかな」
「“同行を望んでいた”んだから、そうだろうな」
「…………そう、だよなあ」

シズの言う通りなのだと思う。
たまたま居合わせたんだろう自分達が、たまたま出会した二人と、いつまでも一緒になんて居られる筈は無かったし、そもそも、目的が違うのだから、そうだろう。

二つの背中が、どんどん遠ざかっていくみたいだった。

「……フィンさんはさ、」
「もう寝ろよ、ルカ」

「きっと、かかんにーちゃんのこと、すきなんだろうな」
「────は？」

拍子抜けしたみたいな声だった。
驚いたような、変な顔をしているシズが可笑しくて、思わず笑った。

「だって、すきな人が居なくなったら寂しいじゃんか」
「…………」
「シズだってやだろ、……アリ────」

アリシアが居なくなったら。

そう言おうとして、急に、シズが立ち上がるから、見上げて。
やっぱり変な顔をするから笑ったら頭を叩かれた。

こういう時、シズは意外と力があるのだと気付いたのは、つい此間のことだ。

「……それを言うなら、お前だってそうだろ」
「当たり前じゃん、オレだってやだよ」
「…………」

またベッドに寝転んだ。
シズの顔は、前髪で隠れてよく見えないけれど、座れよって言っても座らなかった。
多分、まだ、変な顔をしているのだと思う。

「……お前さ、」

寝ろ、と言われたのを思い出して、もう寝るか、って言おうとして。
先に、シズが口を開いた。

じい、とアリシアの肩からコトカを眺めて、それから

　▼ウルヘアの　にらみつける！！

うん、ギブアップ。これ以上は無理無理。額に手を当ててしゃがみ込む。だって恥ずかしい。正面切ってにこやかに笑いあうの恥ずかしい。死ぬ、死んでしまう。
リアクションを取ろうとしたところで小突く音が耳について、少し間をおいてから偽者は落ち着いた様相で顔を上げる。
こほん、と咳払いの後。

大きな文明、国という概念がまだ数百年程しか経っていない小国の集まりか。カーストは相応にある様子だけど……。

名前だけ聴けばそう思う。ジャンの反応を見る限り、シズのいう"知らない人"でもあるのだろう。単に彼が話を聞かなかった意味合いで知らないだけかもしれないが、判断材料が足りない。

と、すればそれはとても小規模な国の集まりであると推測できる。
材料さえ揃えれば転移の手助けになる。

ジャンへの説明はそういう所で噛み砕いたものになる。

誠実に対応してくれるシズにそう快諾し、ルカへも同様に。彼女は優しく「そう畏まらなくて良いんですけどね……」と独り言のように呟いた。

自分の言葉に驚く少年に目をぱちくりさせると、
差し出された「アイス」とやらを素直に受け取りまじまじと見る

遠慮なく口に一つ放り込むと、舌の上で転がしながら視線を泳がせる

------------練習試合終了後

ボクは今、あの２人　と言ったか？

あの　２人・・・

つまりここには、ルカ１人・・・

手遅れなんてことは　ないよね・・・？

とりあえず、話題をかえてみる

独りごちると共に、小さく息を吐いて、武器を構える。

　ウルヘアはいつもより血の気が多い気がする。