肩に乗るアニマへ干し肉をちぎって与えながら割り当てに目をやる。
ここのところ秋月を雇ったフェリア、そして協定を結んだ別の一行と混成して編成を再構築、
これまでとは違う状況に対応するように活動することが目立ってきた。

その理由を知る由もないが城への進行とは別に森や山岳、陣取れば守りを固めやすい地形なことから
戦術的な目的、そしてそこに住まうエンブリオに協力を仰ぐ目的ぐらいは推測できた。

今回は城への進行、仮の中継地点の確保を目的とした編成に加わったのを知り眉を潜める。
城には多くの異形、その中に混じり死霊がいる。
腐敗した、しかし明確な肉体を持った亡者。

指に残る塩気を舐め、刹那、大きく息を吐く。

衣擦れ。それとは別にぬめりを伴う音を引きずり、足音が大きさを増していく。
怨嗟の声、慟哭。それ等を交え、ゆっくりと秋月のいる場所へ近づいてくる。

音を立てずアニマを預かり、ノームは音もなくその場から距離を取る。
曲がり角の向こうに消えたのを認めて、秋月は静かに音がする方へ近づき、物陰から音の主を探る。

いくつもの人の皮が繋ぎ合わされ、頭部に至っては貼り付けられた複数の鼻がぶら下がり揺れる。
何かの意匠なのか人とは思えぬ翼が縫い付けられたそれは、人の部品で造られた悪趣味な天使像という印象を伺えた。

無軌道にかぶりを振り、縫い目の隙間から覗く赤い光—瞳のように蠢くそれが周囲を伺う。

震える頭を抑えるように、揺らめく腕が掴む。
震えを抑え込むように指が食い込むリッチの虚ろな双眸に、光が灯る。

頭を抱えながら、顔を上げたリッチが声のする方に双眸を向ける。

秋月が壊滅した街で生き残る上で、ゾンビになりかけながら自我をわずかに保つ者にも遭遇していた。
亡者の仲間となる中、存在そのものが溶け込む中、間隙を縫うように浮かび上がる自我。
事件の元凶に近い位置にいた故に犠牲となったその亡者は秋月に真相を示唆する言葉を託し、人としての生を終え、
直後、彼の手によって亡者としての活動を終えた。

杖を掴んでいた手も、得物を床に放り出し、跪き、頭を抱える。

共にいる魔法少女のことを思い出し立ち上がった秋月の手を乾いた手が掴む。
失念。油断していたと焦燥を覚え振り返った彼を、リッチは静かに見つめていた。

笑っている。苦悶に満ちているその表情が、秋月にはそう見えた。
人の心に生まれる負の感情。それよりも昏い存在に呑まれようとする中、

皮膚の中から覗く赤い『瞳』が明滅し、それにつれ、双眸に宿る光が強さを増していた。

肩に乗るアニマへ干し肉をちぎって与えながら割り当てに目をやる。
ここのところ秋月を雇ったフェリア、そして協定を結んだ別の一行と混成して編成を再構築、
これまでとは違う状況に対応するように活動することが目立ってきた。

その理由を知る由もないが城への進行とは別に森や山岳、陣取れば守りを固めやすい地形なことから
戦術的な目的、そしてそこに住まうエンブリオに協力を仰ぐ目的ぐらいは推測できた。

今回は城への進行、仮の中継地点の確保を目的とした編成に加わったのを知り眉を潜める。
城には多くの異形、その中に混じり死霊がいる。
腐敗した、しかし明確な肉体を持った亡者。

指に残る塩気を舐め、刹那、大きく息を吐く。

衣擦れ。それとは別にぬめりを伴う音を引きずり、足音が大きさを増していく。
怨嗟の声、慟哭。それ等を交え、ゆっくりと秋月のいる場所へ近づいてくる。

音を立てずアニマを預かり、ノームは音もなくその場から距離を取る。
曲がり角の向こうに消えたのを認めて、秋月は静かに音がする方へ近づき、物陰から音の主を探る。

いくつもの人の皮が繋ぎ合わされ、頭部に至っては貼り付けられた複数の鼻がぶら下がり揺れる。
何かの意匠なのか人とは思えぬ翼が縫い付けられたそれは、人の部品で造られた悪趣味な天使像という印象を伺えた。

無軌道にかぶりを振り、縫い目の隙間から覗く赤い光—瞳のように蠢くそれが周囲を伺う。

震える頭を抑えるように、揺らめく腕が掴む。
震えを抑え込むように指が食い込むリッチの虚ろな双眸に、光が灯る。

頭を抱えながら、顔を上げたリッチが声のする方に双眸を向ける。

秋月が壊滅した街で生き残る上で、ゾンビになりかけながら自我をわずかに保つ者にも遭遇していた。
亡者の仲間となる中、存在そのものが溶け込む中、間隙を縫うように浮かび上がる自我。
事件の元凶に近い位置にいた故に犠牲となったその亡者は秋月に真相を示唆する言葉を託し、人としての生を終え、
直後、彼の手によって亡者としての活動を終えた。

杖を掴んでいた手も、得物を床に放り出し、跪き、頭を抱える。

共にいる魔法少女のことを思い出し立ち上がった秋月の手を乾いた手が掴む。
失念。油断していたと焦燥を覚え振り返った彼を、リッチは静かに見つめていた。

笑っている。苦悶に満ちているその表情が、秋月にはそう見えた。
人の心に生まれる負の感情。それよりも昏い存在に呑まれようとする中、

だが、束の間、再び『瞳』が光を増し、瘧を伴い身を揺さぶり始める。

激しい震えの中、寒さに耐えるようにくすんだ歯を食いしばり、握りしめた拳で膝を叩きながら、
リッチは衣から折り畳まれた、変色した体液が付着した紙を抜き出し秋月に示す。

声の震えが、変わる。苦悶から、躍動に。
その瞬間秋月の蹴足がリッチの顎を射抜き、胸に回し蹴りをねじ込み吹き飛ばす。

抗った者が飲まれる瞬間。あちら側に取り込まれた瞬間。
それを察して、耐えろと言葉を投げかけたことに、自分でも驚くほど迷いなく足が動いたことに声を絞り出す。

それまで言葉を交わしていた者が、現実に向かい合った者が、呑まれていく。
奇跡も起きず、望みも叶わず、ただ処置できなかった。それだけのこと。

骨を軋ませ首を傾げる仕草と共ににじみ出る闇が、リッチの目の前で収束していく。
殺意はない。ただ取り込むだけ。
目的も、意図もない。

目の前の現実。名前さえも聞けなかったホリィの夫を見据え、歯を食いしばる。

独りごち、直後、大きく息を吐く。
背後からかけてくる複数の足音。リッチの周囲に生まれる気配。

魔法も、異能も、エンブリオも、何を持っても起きた現実を歪めることはできない。
自分が経験したことを覆す体験多くをもってしても曲げられない現実に、頭の中が熱くなる。

ホリィの夫を見据え、見開いた瞳でリッチの『瞳』を睨み、拳を握りしめる。
自分が成すべきことを成すため、ゆっくりと腰を落とし、足を踏みしめた。