「そこで私はその火を吹く竜の首を絞めてやって、えいやっと投げつけたのさ。やつは目を回して降参したよ。ふふっ」

　氷漬けの所から助けてやったシュルケー。この親指サイズの娘の話をさっきから聞いているエルだが、その話はとりとめのないものだ。

　やれ、魔王の住む山に挑んだとか、千年生きる死霊を封印したとか、こんどは火を吹く竜を退治しに行ったときたもんだ。

　シュルケーは相変わらず袖の中にもぐりこんだまま得意げに話を続ける。エルは腕時計を見るような格好でシュルケーの話を聞いていたが、なかなか腕が疲れるものだ。

「はいはい。君の小さな体でどうしてそんな冒険が出来たかは聞かないよ。それで何で氷漬けになってたんだい」

「話せば長くなる……」

　その後もシュルケーは天翔ける天馬の背に乗ったとか、百年に一度咲く花を見たとかの話を続けた後、ようやく本題に入ってきたのだ。

「そう、わたしは次なる冒険の旅として、空につき立つ氷の城の女王に会いに行ったんだ。だが途中で吹雪に吹かれて気を失ってな……いや、危ないところだった。気が付けばお前に助けられていた」

「はいはい。そんな山この辺のどこにもありませんよ」

　エルはシュルケーの冒険に何か引っかかる所を感じつつも、彼女との再会を祝して温かいコーヒーを入れてやった。もちろん砂糖とクリームを大量に入れて。

　シュルケーはコーヒーカップの隣に立つと、小さなスプーンを担いで器用にコーヒーをすくいうまいうまいと飲んでいた。

「シュルケー。僕はこれから大きな戦いに挑むんだ。何でも強いイカが暴れているらしい。君はここでじっとしていてくれよ。夕方までには戻る」

「なるほど、御武運を祈るぞ」

　シュルケーはにやりと笑うと言った。

「わたしはわたしの限りない冒険を続けている。なかなか目的地へは辿りつけない冒険だ。でもいつか宝物を見つけて……君に見せてあげたいよ」

「はいはい。楽しみにしているよ」

　そう言ってエルは戦いに赴いた。テントではシュルケーがいつまでもその背中を見守っていた。エルが彼女の冒険の意味を知るのは……まだまだ先の話である。