道も壁も全面が透明な空の道、とても風景画として描くのに適した綺麗な道。

壁の両側面には進行方向に向かって静かに水が流れていてその流れに沿って歩く。

透き通った美しい道を一人で——


「お姉さん」

流石に一人は心細くて声を掛けたが返事は返ってこなかった。

僕にも見えなくなってしまったのだろうか？

心細くて、ポプリをぎゅっと抱きしめて、首元に居るククルツァは僕の頬を撫でるように顔をすり寄せる。

「……ねえ、メエメエさん」

足元に居る羊のエンブリオに声を掛ける。

「おや、私にお話とは珍しいですな。執事のことでも勉強なさりたいのですか」

「そうじゃなくて……執事と従者って近い考え持ってる？」

「それはそれぞれだと思いますぞ」

「……グノウは僕が立派な主人になったら喜んでくれるかな？」

きっと、頼りないから、いつまで経っても弱い僕だからグノウは呆れ果ててあんな風になっちゃったんだ。

「強くなったら、一人で勝てたらグノウ褒めてくれるかな」

「迦楼羅様、あまり難しく考えすぎると周りが見えなくなります」

「え？」

例えば本当にグノウ様は迦楼羅様に呆れ果ててああなったのか。

思い返してみて下さい、頼りない貴方にいつも手を差し伸べて助けて下さったのは誰か。

別にグノウ様は貴方が頼りないからああなったわけではないでしょう。

もし、もしも貴方に理由があるとしたらもう一度胸に手をあてて考えてみて下さい。

そしてあの方は迦楼羅様を支えるように、あの方の支えもまた——


「遅れてすみませんでした」

全てを聞き終る前に、後ろからアレジアお姉さんがやって来た。

「あ、お姉さん」

「……あまりに綺麗な道なのでつい見惚れて離れていました」

そう言って僕の後をゆっくりとついてくるお姉さんの表情は、何処か困ったような表情をしていた。

何か見たのかな、誰かとお話したのかな。

「お姉さんも、誰かと何かあったの？」

少しだけ揺らぐ表情、それは直ぐに笑みに変わったけれど。

「いいえ、私はこの世界に知り合いなどいませんから」

「そっか……」

「それよりも、先には厄介そうな方がいらっしゃるようです。此処を倒さないと進めないみたい」

「え……グノウ達呼んで——」

「もし、これを一人で進められたら、グノウさんも褒めてくれるかもしれませんね」

一人で、あいつを……倒せるかなんてわからない、だけど——

「倒したら、グノウは僕のこと認めて、褒めてくれるかな？」



ただ、グノウにいつもみたいに褒めて欲しくて、僕は絵筆を手に取った。

迦楼羅の声も届かない様子で、しくしく泣いている。

・・・・・・と、そのとき、突然のつむじ風が、ぎがやの園児帽を吹き飛ばした！

どうやら、幼稚園児してたときの記憶がないらしい。

なんて言いながら、だけどクロイノをこちらに呼ぶことはなかった。

どちらにせよ、そんな好意自体をあしらうなんて真似は出来る筈もない。

迦楼羅に笑いかけて、掌を向ける。上下にくるくると何度か反転させてみてから、もう１度表にしたとき、掌に花が咲いていた。
ましろいろのフリージア。よく見れば衣服の袖口から茎が伸びていた。
それを躊躇いなくブチッと抜き取る。

語りかけるような、ささやくような声。一度瞑目したのちにすいと開けば、指先で茎を転がし、迦楼羅に差し出す。
感知できれば、ほんのりと魔力が感じられる花。

口の先を上げてぶーたれる。
そして、すごく微妙そうな顔をする彼をなだめるように話かけた。

たまには褒めてくれるといいよねー、と付け加える。

手を伸ばして触れる直前声をかけられると手を引っ込め、彼の方へと顔を向ける。

代わりにか、きょろきょろと、虹色の刃をいろんな角度から見ている。

このままでいいという迦楼羅の言葉に、シルフィードはにっこりと笑って頷いた。

どの辺りが感動的だったのか、詳しく教えてほしい。

なんだかんだと言って結局のところ、信頼関係はあるようだ。

　　　　　　　　表情は変わらないが、言葉尻はやわらかい。

　　　　　　　ツッコミどころはあったが、男はそれを無視した。

口元を緩める。

被っていた帽子を床へ、パレットと絵筆を手に持ち、色をつけて振り払い刃を作る。