人々の喧騒の中に佇んでいた。

そこにいる人々はそれほど多い数ではない。
せいぜい１００や２００といったところであろうか。
彼らは一様に軽装で、槍や弓、鞭や短剣、盾など各々統一性の乏しい武器を所持している。
めいめいで談笑している人々は、すぐそばにある１メートル程度の岩の上に一人の男が上ったときに一様に黙って体を向けた。

男が大きな声で何事かを話し始めた。
それを彼らは黙って聞いている。
それは演説のようでもあり、目の前の彼らを激励するかのようでもあった。

男は叫び声を上げた。
同時に腕に持っていた槍を振り上げた。

周りの者たちもそれに呼応するかのようにめいめいの武器を掲げて叫びを上げた。

龍の目覚めた時刻は３時と４時の間といったところだろうか。

夜の帳はまだ深く天を覆っていた。
少々体調が優れないと感じ、廃図書館で眠りについたのだが、目覚めたときにはそのようなものは見る影もなかった。
夜霧の孕んだ空気が今の自分には少し心地よい。
すっきりとした思考のなかで、先程みた夢について思い返す。
岩の上に立っていた男。
何故彼が槍を振り上げるまで気づかなかったのだろうか？
彼の額には—

そう、確かに二本の角があった。

一様に聞き入る人々にも形はさまざまであったが、角のようなものが額から確かに生えていた。
この世界に来てからだろうか。夢にしては現実感のある、それでいて彼の知らない光景。

それこそは彼の知るべき世界へと繋がっている。
龍はそう思えてならないのだった。

　仕事が見つかってもすぐに賃金に直結しません。多少の成果と継続性を見せて初めてご飯が食べれます。
そもそもが、もう大分まいってます。出来れば火を自力で熾さなくても良いところで寝たい……
その一心でよろよろよれよれしながら後に続きます。

　大人しくついていきますが。鬼さん、人間さん食べる事もございますかね？

　お、意外と気が回ります。折角見つけた宿、不興をかって追い出されてはたまりません。

握手に応じる赤い髪の鬼。

龍は両腕を脱力させ、下ろした状態で低く構えた。



彼の右頬がわずかに釣りあがる。

ふいに殺気をまとっていく——

彼の両腕がまるで別の生き物のようにうねりを上げた。

そのさまはまるで四肢の無い爬虫類のようだった。