目を覚ました。
それは多分、その事が最も近い感覚だったのだろうと思う。
石造りの床に投げ出していた足はまだ上手く動かない様だったし、
大きな箱に凭れる様にしていた上半身は姿勢を変えようとする試みには反対の様だった。
今思えば、それは棺の様なものだったのだろう。
四角く切り取られた壁の一部に嵌る鉄格子越しに見えた空には濁った灰色の雲が何処までも重く、厚く、
時折は流れ時折は渦巻きながらその向こうの一切に封をしていた。
自分はその時初めて世界に形として認識された様でもあったし、
また永劫この姿勢で存在し続けていたのがふと意識を取り戻した様でもあった。
多分、それは何方も正しかったのだと思う。
目を開けた時から、これまでとこれからに向かって同時に形作られ、
自分はその瞬間に確定したのだろう。

呼ぶ声に目を上げる。
それが自分に与えられている名前だということは言われなくても分かった。
初めて見る顔はとても懐かしいものだった。
恐らくは自分と近しい形質なのだろうと思った。
やっとあえたね、とその唇は紡いだ様だった。

「そうみたい」

それが自分が初めて発した音だった。

差し出された手を見て首を傾げたが、握手したいのかなと思い、右手（前足）を差し出した