自分が嫌われるのが怖かった。

最愛のお父様を亡くし、漸く出会えた最愛の人にまで突き放されたら・・・なんて考えるだけで足を踏み出せないでいた。

真実を話し、軽蔑され嫌われるくらいなら、今のままでいい。

結局私は臆病なのだ。

子供達を寝かしつけた後、レイチェルと一緒にシヤンハイルの酒場に来ていた。

何故かと言うと先日、レイチェルに過去の事、そして今の事を打ち明け、早々に相談に乗ってもらってるわけだ。


レイチェルはそう問いかけた後、グラスになみなみと注がれたウィスキー、Darien【ダリアン】をぐいっと飲み干した。

余談だが、シヤンハイルの水は澄んでいて、ジュースやお酒に使うととてもおいしくなるのだ。
かく言う私もコーネリア領のワイン程ではないが、此処のお酒を口にし、それ以来好きになっている。



飲み干したグラスをドンッ！と机に置き。

タメ口なのは別に彼女が酔っ払っているからではない。

レイチェルは私の侍女でもあり、『姉』的存在でもある。
だから彼女は領主（今は元になるのかもしれないが）の私にもタメ口で話してくれる唯一の相手だった。


むしろ、私がそうしてくれと頼んだからでもあるのだが・・・。

レイチェルとは違いコーネリア産の赤ワイン、Charles-Saumur【シャルル・ソミュール】をちびちびと飲みながらそう答えた。
この酒場では本当に色々なお酒が飲めるので、割とここら辺では有名な酒場になっている。


その答えにレイチェルは呆れた顔で。

店員を呼び、レイチェルは追加のウィスキーとホイホイ焼きを注文した。。

レイチェルは注文したウィスキーを一口飲み、グラスに入った氷をくるくるとさせつつ答えた。

なんでも、私が「本が好きだから本が読みたい」と言っただけで、一部屋まるまるを書庫にするくらいだといっていた。
しかもそれを与えたら今度は外に出なくなってしまったので、その責任は自分にあると言って、どうしたらいいかを泣きながらレイチェルに相談しに来たらしい。

確かに幼かった頃は本が好きで、屋敷の中の書庫で丸々一日過ごしていたこともあったっけ。
それがまさか自分の言ったあの一言から出来たものだったなんて思いもしなかったけど。

いつの間にか氷だけになったグラスをカランッと鳴らす。

アレとはアステマ・ファムのことだ。

お父様があの教会にいた理由。
それはアステマ・ファムを破壊するつもりではなく、水神教秘術、『ノワークラの黒式』で『退行』をかけ、原初へと還すつもりだった。

あの時は『退行』がアステマ・ファムにかかっている事だけには気付いたのだが、誰がかけたかまでは確信が持てなかった。
でもその後、ヘリヤがリスクついても話してくれて、お父様がかけたと確信した。

それは『ノワークラの黒式』の代償として、髪が赤く染まる。



私の髪はお母様譲りで、お父様は少し茶色交じりだったのだ。
でもそれがいつしか赤く染まっていた。
元々が茶色だったから、変化にはあまり気付かなかったのだけど・・・。

なるほどね、と言いながらレイチェルがホイホイ焼きを切り分けようとしたら、一切れ切り分けられていた。

声の方へと振り向くと、少女が一人座っていた。

なら、誰？？

皿に取った分のホイホイ焼きを食べつつ、少女は文句を言いつつ店員を呼びつけた。

さてと、と言いながら『注文が来るまで暇ね』なんて言いながら。

そもそも、もう黒式を行う素材がないと付け加えた。
ヘリヤの話でもそんなことを言っていたっけ。

『いつもの』と注文していたウォッカ・・・銘柄までは分からないが、ショットでぐいっと飲み干し、グラスを置くと下に紙が挟んであった。

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まだ外の夜は肌寒いかった。
月夜が町を明るく照らし、一人の少女の影を映し出す。

そう言って何もない空間を掴むみ、手を下げると裂け目が生まれた。

そういって空間の中へと彼女は消えていった。

マリアがクッキーを頬張る様子をみてすごく嬉しそうに微笑みながら様子を見る。

はずかしがるマリアに嬉しそうに笑ってお姉さんと呼び続ける。