アールの目が覚めたのは、まだ朝も遠い夜更け。

ゆっくりと身を起こし、辺りを闇夜でも光る金の目で見渡した。
何かを感じて起きたのは間違いないのだが、どこを見渡しても、ぱちぱちと焚いた木がはじける音だけが、明かりと共にそこにあるだけだった。

「……気のせい…か」
言い聞かせるようにそう呟くものの、背中のあたりでぴりぴりとした痛み、違和感を感じていた。

存在を確認するように、自分を安心させるために、隣へと視線を落とす。
上着で口元まで覆ったチセが、規則正しい寝息を立てている。
「………」



俺がチセの家になる。

チセの、家族になるよ。


「……家、か」
あの時の言葉を、この少女はどう受け止めたのだろう。
咄嗟に出た言葉だったとはいえ、そこに嘘はなかった。

少女のためでもあったし、自分のためでもあった。
アールがもう家に、村に帰れる確証はなかったし、帰れるとして、そうしたらきっとチセとは別れることになるだろう。
「…………」
チセの隣で膝を抱え、小さく身を丸める。
その目にはぼんやりと、弱々しく燃える光が少年の金の瞳を明るくさせた。



呪いが解けても、この一揆が終わるまではチセの傍にいよう。

「約束、したんだから……」
小さく呟いて、チセの顔を見下ろす。
ほとんどがその柔らかい髪に隠されていたが、今夜は多分、泣いていなかった———と思う。


でもどれだけ安堵しても、背中の痛みは、消えなかった。

アールに目を向けた時には、それまでチセに向けていた表情は消え失せていた。
冷たくもなく、かといって温かくもない色。

そして、ただただアールの次の言葉を待っている——

少女はソワソワしている。

（目をあけたままねむっている！）