◇ Intermission　→side:B



騎士団の屯所にて、何人もの人間が忙しく遣り取りをしています。
普段の重苦しい鎧は身に着けていませんでしたが、王の家紋の印された腕章が、彼らが騎士であることを示しています。
そんな彼らの慌ただしさを後目に、二人の少女がまるで苦虫を噛み潰したような難しい顔をしていました。

「……やっぱり、こうなったわね。」

「あれだけ上手く潜伏されては、事前に動向を探ることは不可能でした。
　私たちに防ぎようもなかったのも、事実です。」

「それはわかってる、わかってるけどさぁ……。」

そこまで前置きして、急に少女の声色が変わります。

「……もし、私があの時、あの女を殺してでも止めていたら、こんなことにはならなかったんじゃないかなって。」

「それは一理ありますが、こうなってしまった以上は所詮結果論です。
　それに……、私の知っているあなたなら、絶対に、そんなことはしていません。」

「どうせ、私は甘っちょろいですよ。」

「一応褒めたつもりだったんですけど。」

「う、うるさい……、ばか……。」



「……でも、それにしてもここ数日、急に失踪者の数が増えすぎじゃない？」

「今まで活動が止まっていた分の、埋め合わせのつもりなのでしょうか。」

「それも考えたけれど、どちらかといえば、私にはこれは……、模倣犯に見える。」

「つまり、あの女とやらは関係していないと？」

「……これまでの誘拐は、何か明確な目的の元に行われていたような気がするけれど。
　今起きているのは、似たような年頃の少女を、手当たり次第に攫っているように感じる。」

「これだけ多くの少女が攫われているのですし、そういう風に感じるだけでは？」

「そもそもそれがおかしいのよ。
　こんな数の女の子、あの女一人で攫えるはずがない。
　……もし、これが本当にあの女の仕業ならさ。
　アイツは絶対に、私のことを覚えてる。」

「……つまり、もう一度同じ罠を仕掛けると？」

「そう、手当たり次第に襲っているとしたら、掛かる可能性は高いし、
　逆に警戒されるとしたら、敵方にあの女が関わっている。」

「……試してみる価値は、ありそうですね。」


　

じろじろと見つつ、何かを考える素振りを見せるとえいと昼食代わりに持参した干物を刺に刺す。

なんてからりと笑って、ふと思い至ったように口を開き

なんて、探り探りというように聞いてみせた。

自分の影を意識し、先ほど目の前の少女がやっていたようなこと、黒い結晶を飛びだたせたり、をしようと魔力を通してみる。
すると、思ったより容易に大きなとげのようなもの・・・じゃなかった、黒いビスマス結晶のようなものが浮き出てくる。

自分の目の前にまた違う陣を展開し指でいじりながらぶつぶつ言っている。

淡い光の粒となって霧散する。

特に物怖じする様子もなく受け取ります。

たぷん。

黒い棘が出てくるのを感知し、危なげなく回避。どうやらだいぶ慣れてきた模様。

そういって受け取ると、手に魔法を施し、そっと握ってみます。大きな黒い棘は鎌、レーキ、盾など様々な形に変化し、最終的には脇差のような短い刀剣の形になりました。

目の前の光景をぼんやりと見つめながらも、身体を言うことを聞かず。
腰が抜けたようで、立てもせずに、そこにぐったりと座っていた。

奥には、魔女の身体があった。
すでに虫の息で、意識も絶え絶えに、血の海を広げてゆく。
周囲には、小さな蝙蝠が群がっていた。
蝙蝠は、魔女の身体へと降り立ってゆき、
やがて——

——その肉を、貪り始めた。

魔女の手足を、はらわたを、顔を。
無数の蝙蝠が、啄んでゆき。
少しずつ、少しずつ、人の形を失ってゆく——。

やがて、魔女の半身が骨へと化した頃。
ミハイユは、弱々しく立ち上がった。

ミハイユの背後から、声がする。
すぐ横で倒れているはずの魔女は、いつのまにか其処に立っていた。
……全くの、無傷の姿で。

魔女は、足元に転がる黒い塊に、手を翳す。
すると、それはふわりと浮き上がり、いつの間にか手に持たれた瓶へと、吸い込まれていった。

二人組は、立ち去ってゆく。
魔女の、研究所へと。

そもそもどこで呼吸していて、どこで息を吸ったり吐いたりしているのだろう…？

メグは、白髪の少女の、震えている真っ白で小さな手を、包み込むように優しく握り、
「大丈夫だから」と言い聞かせるように、何度もうなづいてみせた。

影から飛び出してきた黒い兎は、触れるとそれはそれは不思議な感触でした。

例えるなら、スライムのようなゼリーのような、少しひんやりとする感触でした。

しかし弾力はいいようで、兎のほっぺたを むにゅっ っと人差し指で押してみると、
これまた むにゅっ っという感触が返ってきます。

メグがいつも触っているような、重厚感のある温かい毛並を ぽふぽふ するのも一興ですが。

この「エナ」と呼ばれた黒兎の場合、おんなじ子をたくさん敷き詰めて、
そこに寝っころがると気持ちよさそう……そんな感想をメグは抱きました。

果たして、この黒兎はどんな芸当を見せてくれるのでしょうか？

メグはわくわくしながら、この黒兎の瞳を見つめています。