Vanetta's Diary - Page.15

面倒くさい話はやめようと思ったけど、どうしても今日だけは書きたい。
私達は昨日、元王宮騎士団副長にして現庭師、庭園の守護神ブランチマンの打倒に成功した。
僅か十日程前に手も足も出ず鎧袖一触で粉砕された相手に。
それも今回は、私達が鎧袖一触を体現した形で。完全な圧勝だった。

僅か十日程。ここまで人は一気に強くなれるのか。
前にも疑い恐れたエンブリオの力。
私達が、いえおよそエンブリオと契約し力を借りた一揆参加者の全てがここまで強くなったのは、
間違いなくエンブリオの力によるもの。
それにここ数日顕著になって来たけど、道中で出会う魔物や野良エンブリオも、
ともすれば件のブランチマンすら凌駕する力を持っているであろうものが少なくない。

元とはいえ王宮騎士団の副長まで務めた人間すら超える力を持つものがここまで居るともさすがに考えづらい。現実味がない。
私達にこれだけの力を分け与える事ができるエンブリオであれば、
そのエンブリオ自身が強い力を持つことは不思議でも何でもないのだけど。

侵攻が進んで奥地に進んだから生息、遭遇する魔物が強くなった、というのも考えたけど、
この間の荒地探索で否定される。私達は拠点にごく近い地域を探索したにも関わらず、
そこまで弱い魔物とは遭遇しなかった。むしろ強かった。槍がさっぱり通らなかった。

後発の一揆参加者の前には相応の力を持った魔物が現れたとも聞くし、私はここで１つの仮説を立てる。

ネクターには、あるいはエンブリオが与える力には、強い魔物を呼ぶ力がある。
弱い魔物が恐れて近寄らなくなるでもいいし、強いエンブリオがネクターを求めてやって来るでもいい。
もしくは単純に、得た力に寄らず契約からの時間が問題なのか……
どちらにせよ、単純に持っていて有利かと聞かれれば素直に頷けるものではないのかもしれない。
力を得る代わりに脅威も呼び寄せる諸刃の剣。

それでもこの一揆という戦争を前にしてこれを使わない選択肢は無いのだけど。事実成果は出ているし。
自分の力と迫る力のどこまでも続く綱渡り。この一揆が何らかの形で完結するまで永遠に。

……書いてて思った。何これ、地獄？　いや、そこまでは酷くないと思うけど……

そう言って、エレネは一枚の写真を取り出す。髪の色などはエレネと同じようだが、頬の紋様が逆だったり、少しばかり身軽——というよりは胸元や腹部が顕になった大胆な格好をしている。

凄く恥ずかしそうだ。

そう言って荷物の中から一つ、野球の硬球を取り出してぽーんと山なりに投げてよこした。

握手を返されて、嬉しそうに笑う。

どことなく羨ましそうにあなたを見つめている。