ネクターの花弁を与えたエンブリオは成長する。
その成長によってか、おれの影と同化しているアカメは、新たな能力を得た。
影を切り離して移動し、活動範囲を広めたのが一つ。
そして、状況に応じて立体化し、おれの身体と同程度まで質量を得ることができるようになった。

その能力を使い、拳からシェイドを打ち出せるようになった。
その辺の木ならへし折る程度の威力があるようだ。
正直岩盤投げは疲れるのであまりやりたくない。

新技の改良に気を良くして暴れていたら、黄色い蜃気楼のようなものが目の前に突然現れた。

こいつはどうやら喋る事はできるらしい。ただし全く理解はできない。

たぶん、これもエンブリオだろう。
どういうエンブリオなのか、考えてみる。

これはモノではない。そっと手を差し出してみたが、触れることが出来なかった。
これは生きている。その手に温かみと鼓動のようなリズムの圧が伝わる。
これは意思を持つ。ただの鳴き声ではなく何かしら喋るということは考える力を持っている。

そう思ってみると、どことなくしっくりきた。
魂の形が見えればこういうものかもしれない。
しぶとく生き残るための力が手に入りそうだ。
とりあえずネクターの花弁を取り出し、ふりかけて契約してみた。

よくわからないが、力が流れこんできた。



その後しばらく歩いたが、急に空腹感を覚えた。
ルリアンナから少し分けてもらった食料も、既に尽きてしまっていた。
このまま野垂れ死ぬわけにはいかない。
何があっても生き延びる……何をしてでも。

新たに契約したエンブリオが、おれに疲れを忘れさせ、突き動かしていた。
あるいは、取り憑かれていたのかもしれない。
頭の中にはずっとおれの声が響いていた。

死にたくない　死にたくない

死にたくない死にたくない死にたくない

生き延びたい。

何度も何度も、頭のなかでおれの声が響いた。
自分で考えているのか、何かが囁いているのか、わからないまま
ただただ、食料を求めて彷徨った。

ゆらり、ゆらり…と怪しい足取りで兵士との間合いを詰める。

しばらく考えた後、サラマンダーに命じる。

兵士の片尻は失われてしまった……

ラルフ鋼を使い、丸太表面のささくれを処理してみる。

ルリアンナ材でネクタイを擦ってみた。

美味しくない草に火を付け、煙でシャツを燻した。

しかし饐えた臭いは取れなかった……。