エンブリオが大地を枯らし、終末を呼ぶ物。

　そんな大それた話、聞いたことなどない。

　そこに居るだけで生命を吸い続ける存在など、そんなもの最早生物ですらない。ただの乾いた灰と同義だ。

　……悪いが、俺はそんなものと旅をしてきたつもりはない。

　振り返る。共に旅してきたエンブリオ達と視線が交錯する。
　今の話が真実ならば、自分たちに恐れや嫌悪を抱くのでは？　大方、そんな取りこし苦労を考えているような表情をしている。


「今更、何を心配している」

　呼びかける。

「奴の言葉が真実かどうかなど今はどうでもいい。お前らはお前らだ」

　今更、手の平を返すような真似などできようか。
　
「やるぞ。いつも通りにな」

　構える。いつものように。

　エンブリオを信じ、その力を借りて戦いに勝利するために。

いつぞやの巨大なイカとの戦いを思い出したらしい。

と、いってから、あ。と何かを思い出したように

その場にしゃがみこみ鞄を開ける、中から取り出したのは、底と蓋が金属で、胴が硝子で作られたカプセル。中には白い砂のようなものが入っている。

曲がりなりにも治世者なのか。それっぽいアドバイスを遺す。
無論、誰がやるかー、とかどのように監視をー、という具体的な事は考えていない。

ゼゼの「その紹介は容赦願う」という言葉に同意の頷きを送りつつ

とても不安を煽るような宣言だった。

お転婆そうな見た目通り、座して待つのは性に合わないのだろう。
彼女にとって変化躍進は望むところであったようだ。

そう、力強く宣言するのだった。

互いに投げ合った疑問符。
物珍しい情報。

楽しい会話の時間は、あっという間だ。
長々とこうして会話をしてきてどれほどたったろうかとふと思う。

王だか魔女だかエンブリオだか。
原因は不明ながら、元凶は倒されたとも聞く。
それならば、後は落ち着いていくだけだろう……そんな事を思いながら。

程度落ち着いた頃に迎えに行くさ。
青年はそう笑ったという。



暫しもすれば、金の竜がその場から飛び立っていく姿が見られることだろう。

硝子製の切子を二つ、袖の中から取り出した。
青緑色と橙色、どちらもネクターと思しき花が刻み込まれている。

少しの間、頭をひねりながら考えている。

そう言うと手帳を取り出し、大まかな村の場所と「エクエス」という名を書き記し紙をちぎって差し出す。

そう言うと、荷物を持ち直し、その場を後にしようとする。

右に、左に、槍を旋回させ正面でぴたりと構え。