そう言って。ゼゼは猪口を持ち上げてみせる。注がれていた透明な液体が光を反射し、静かに揺れる。

　ゼゼは猪口の中身を煽ると、首を上に向ける。

　ここは妖精の森。その名の通り、妖精の住まう場所。

　そして今いる場所には、夜にもかかわらず光に溢れていた。

　赤色。青色。黄色。緑色……色取り取りの光達が暗い森の中に光の軌跡を描き、時に並び舞い踊る。その輝きは蛍にも似ているが、きっと違う。
　蛍はあんなにも急制動をかけもしなければ、放物線を描きながらの飛翔もしなかったはずだ。

　きっとこの舞い踊る光こそが、妖精たちなのだ。

　

　ほれほれ、とスピルは酒の入った徳利を勧めるが、プレソは渋い顔を作ると、待ってと手で制する。

おお、怖い怖い。と退散するスピルであった。

察するに、実力面ではなく、性格面の問題なのだろう。
身体を白く塗って白竜と主張する黒竜がいるような世界である。

穏やかな顔で頷く。
その表情は、どこか、決意を固めたようにも見える。

最低限の罰則と賞金首というシステム、闘技大会等の存在はあるいは、積み重ねてきた過去があってこそなのかもしれない。

ゼゼに当事者であるかのようだと指摘されれば、

隠す気は元々無かったか、あるいは貴方にならば話しても良いと考えていたのだろう。
まるで答えを予め用意していたかのように、あっさりと話した。

ここまでリザードマンという、互いの世界にとって「好戦的」という特徴のある種族でありながら穏やかで理知的な印象を持っていたゼゼが持つ、強い破壊衝動を目の当たりにして。

憎しみと、闘志と、怒りと。烈火の如き情動が燃え上がる瞳。
それを、さっきとは一転して穏やかな顔で眺める。

ただ

あらゆる虚飾と偽りを剥ぎ取った。
フィーグルの本音。戦う理由はそれだった。

知らないものの喪失を悲しむことは無理な話だ。
基本的に存在自体の消滅は避けられないことでもある。
……まあ、例外は何事もあるのだが、少なくともソレは言うべき場でもないだろう。

その発想はなかった、という顔で手を打った。
面白そうだと小さく笑う。


礼の言葉には気にするなと笑った。

そんなかしこまらなくても、と苦笑いをするのである。
やはり、こういう丁寧な扱いは何だか違和感のある青年であった。