※割と描写的にグロいかもしれませんので要注意※





























　硬質な音が響いた。



　足の下で砕け散る甲殻の感触は意外と軽い。
　最初の抵抗こそ強かったが、ある程度の圧力を過ぎた途端にそれは途端に脆さを呈する。
　肉の感触がする直前まで抉る様に踏み躙ってやれば抵抗の一撃。

　それを無造作に抑えこむ。
　鞭のようにしなり叩き付けられようとしていたしなやかな尾を片手で捕らえてしまえば動揺の気配。
　それに薄く笑って開いていた片手の爪先をその表面に這わせた。

　微かに表面を削り取る程度の力加減でびっしりと隙間なく並ぶ鱗を引っ掻けば細い傷跡が刻まれる。
　その感覚をダイレクトに受けて何とか抜けだそうとしたのか。
　暴れだしそうな尾の気配に、握り締めた手を先程よりも強く強く引いてやる。



　何かが断裂したような音は、決して気のせいではなかった。

　腕に肉を裂く振動。
　一本一本構築された仮初めの筋繊維が引き千切れていく。
　皮が裂け、骨が砕け、鱗が剥がれ落ち、同時に盛大な悲鳴を奏でさせながら。

　これで血の一滴も流れないのだからシュール極まりない光景だ。
　まるで人形をいたぶる様な感覚にしかなれない。
　だからこそ情けも躊躇もなく腕を引ききれば、一際大きな手応えを残して尾は二つに断たれてしまった。
　もっとも、伸びた皮と申し訳程度に張り付いた鱗と肉と骨とが覗いているだけの断面には興味の欠片も惹かれない訳だが。



　足で踏みつける事で動きを封じる存在が暴れている。
　たかがヒトの身を模しただけの足先に踏まれた程度で動けなくなるなんて情けない話だ。
　もっとも、それはそうさせないだけの拘束力を自身が持ちえている証左でもある。
　使えるものは何でも使うだけの事でしかない。


　軽く、まるで打ち上げられた魚の様な暴れ様を見下ろした。

　当然だろう。
　身の一部を生きたまま引き千切られたのだから。
　でも正直、そんな事はどうでもいい。




　引き千切った尾の先を投げ捨てる。
　コレはもう必要ない。
　視線すら向けずに軽く意識しただけで、それは一瞬で鮮やかな金に染まった。

　本来の色合いよりも更に眩い燐光に包まれたソレは、一秒の間もおかずに砕け散る。
　まるで蛍か何かが舞い飛ぶような光景は幻想的とも言えるのだろうか。
　興味はない。
　舞い散る輝きを、貪るように喰らい尽くす。



　流れ込む情報の奔流を受け流した。

　もう前とは違うのだ。
　この程度の情報量、細やかな前菜にもなりやしない。
　料理のつまみ食いと同じだ。
　味はわかっても、腹は膨れない……その程度のもの。


　そうして、途端に何もかもがつまらなくなった。




　もう終わらせてしまおう。

　コレが『最期』なのだから。
　もう飽き飽きしたのだ。
　だからオシマイにしてしまおう。


　伸ばした腕が正確に喉元を掌握した。
　そのまま砕いていてしまえば何もかもが終わりなのを知っている。
　だから、思うままに力を込めようとして——…




　



































　ふと、見下ろした先。


　消滅を目前にして怯えきった相手の瞳。


　その中。




　見えた顔と、


　その表情は——…










































































　……悪い……悪い夢を見ただけだ。

　決して現実なんかじゃない、と自分で自分に言い聞かせるのが精一杯だった。

ぴーけーとか事故っていうんだっけ、と考えながら

特に根拠のある発言ではなく、ちょっと開きなおりに近いかもしれない。

少し心配げに首を傾げた。

エンブリオが「アンタのせいだぞこれ」とでも言いたげな目を向けている。

インコはおむすびみたいに ギュッ とされた。

目に見えて狼狽するクライの様子に、苦笑と少しばかりの残念に思う表情が浮かんだ。

伏目がちに言葉を零した。

と、何事もないように、普段の調子で続けた。

大事故

誤解はされやすそうッスけど、と小さく零しつつ

　なんとなく予想はしていたが……、サイネルもクライも、もともとの面識はなかったようだ。
今でもお互いの名前をきちんとは知らないくらいに。
敵対からの接触……それだけで、
自身の紋章が反応するほどのエネルギーが発生したというのか？
サイネルはエネルギーをクライに横取りされたといっていたが……。

　紋章はあれから反応していない。わからないことだらけだ。

訝しげな顔で、首を傾げて。

また一つ、溜め息を吐き。

ややリラックスした様子で居たのも束の間。
表情を変えたクライの様子を、訝しげに眺めて。

気楽なんだ、そう言ったクライの横顔に、

そう問うた。

終わりが見えないことに、顔を俯かせる。

自分の憧れをいともたやすく実現することができるあなたを見て、
驚嘆の声を上げる。

それがわかれば、いつか自分にもできるようになるだろうか。
そんなことを考えつつ、そう問いかけた。

ごく一瞬目を伏せたと思えば、再び興味深げな視線が向く。

暗に自分のことはよくわからない、と告げると、再びクライカリオスに問いを投げかける。

本調子とは行かないらしい。
つらそうに青年はぼやきつつも、手にしたのは銀の銃。

自慢げな妹に対し、兄はどこか気怠げにぼやくのみ。

妹が拾ってきたシロモノに、兄は首を傾げた。

ふぅ……と二人揃って息をつくのである。

　　　　　　　　　　　　　　　　葉脈を泳ぐ、玉虫色の鯨。