ここ暫くは何かを考えるばかりで過ごしているらしい。
ぼーっとしている時間も少なからず増えたようだ。

突然殺気のない揺らぎのようなものを感じて顔を上げると、そこにあったのはあの女の幽霊だった。

青い髪をたたえた女は、先日自分の刀に対して異様な興奮をしていたようだったが、どうも今日はその件ではないらしい。

口調が変わり、やや落ち着いた声で話された内容は、己と、雇い主のかつての関係を知る…というものであった。

暫し目を伏せ腕を組みながらじっと聞いていた斬慈であったが、首を傾け、視線だけ女に向ける。

煽り文句をふわりと交わすような優しい口調でアリアナシアが続けた。

煽り文句を歯牙にもかけず柳の如く交わすその女の言葉を、一しきり聞き終わった後。たっぷりと間を開けたのちにやっと口を開いた。

ふうと大きく一つ長く息をつく。

確かに、斬慈が此処に居る初めのきっかけは、女の過去の姿を見ていたからだった。
自分の女々しさが腹立たしさも感じていたが、それ以上に、再会の衝撃は大きかった。

当初の気持ちは、償いにも似た後ろめたい気持ちが全くなかったといえば嘘になる。

だが今は、こうして徒党の前に立ち、誰かを守るために振るう白波のあり方を、
若さ故に弱さとして切り捨ててきたものの中に見出しつつもあった。

誰かとの関係の中にある己に、心地よさを感じていた。


あいつに聞かれなかったから言わなかった…というのは責任転嫁も甚だしい。



言わなかった。



ひとつは、思い出せねぇなら、そのままでいいじゃねぇかと思っていた。

もうひとつは、
過去を忘れ、強く一人で牙をむき、必死に生きてきた氷炎淡雪もまた、
今の彼女自身であるとも思っていた。

彼女が彼女自身のために、記憶を必要とすると言うのであれば、話すべきだろう。
そして、彼女が思い出すことで、何かが変わるかもしれない。



だが、ひとつだけ変わらぬ事実もある。

眼前に立ちはだかる人影を今にも貫きそうな視線でじっと見つめる。

背中に斬一文字を背負った白の一張羅の左肩を掴み、背後へと投げ捨てる。

やや厚手の重みを持った生地が、地面に付いたか付かぬかの処で
身の丈六尺二寸の男の背中から、腕の可動とともに、
　大鉈「濠白波」　が大きく弧を描き姿を現したかと思うと…

刃こぼれなど全く気にしない激しい衝撃が、地表の石を蹴散らした。

眼前に立ちはだかる人影を今にも貫きそうな視線でじっと見つめる。

背中に斬一文字を背負った白の一張羅の左肩を掴み、背後へと投げ捨てる。

やや厚手の重みを持った生地が、地面に付いたか付かぬかの処で
身の丈六尺二寸の男の背中から、腕の可動とともに、
　大鉈「濠白波」　が大きく弧を描き姿を現したかと思うと…

刃こぼれなど全く気にしない激しい衝撃が、地表の石を蹴散らした。