メルンテーゼの深夜。

街から離れたところにある湖のほとりに、小さな炎が揺らめく。

ミズナとして街に出かけていた際に、卍人から貰ったテーブルキャンドルだ。

しかし、ガラスの中で踊る蝋燭の炎も、天に輝く月の明かりも、

彼女の手元を照らすには至らない。

それでも、昼間と変わらない様子で、彼女は手を動かし続ける。

淡い光に照らされるのは、祖竜のみが纏うことを許された、蒼いローブ。

と言っても、それを決めたのは彼女ではなく、彼女から生み出された原初の竜たちなのだが。

ともあれ、その膝の上で規則正しいリズムで揺れるのは、細く上質な糸で編まれた、白いマフラー。

糸だけでなく、編み針も細いため、網目はとても細かく、そして均一である。



不意に、その手が止まった。

編み針ごとマフラーを持ち上げ、自分の首に巻きつけてみる。

解いたかと思えば、また違う巻き方で巻いてみる。

長さの確認を自分で試しているようだ。

それを繰り返すこと数回。

納得の行く長さだったのか、今までとは違う編み方——

つまりは、端の始末をし始める。

最後の目に糸を引き込み、閉じる。

余った糸も丁寧に編みこむ。

が、これで終わりではないようで。

毛糸玉から更に糸を引き出し、束ねて等間隔に切る。

それを鈎針でマフラーの両端に編みこみ、フリンジにしてしまう。

全てのフリンジをつけ終え、ようやく一息。

満足げに頷く。

ガルが毛糸を買ってきて、マフラーを編み始めたのが一週間前。

闇豹へのマフラーを編んでいる最中、卍人からキャンドルをプレゼントされ、

お返しにミズナとして編むことにしたのが５日前。

20年以上のブランクがあったのと、家事や一揆への参戦があったため、

思うような速度では編めなかったが、一週間でマフラーを二本。

それも、慣れている者ですら面倒臭がりそうな糸で、なのだから、

まだ自分の腕に自信を持っていてもいいだろう。

最後の仕上げに必要な物を考えながら、傍らの籠へ片付け始める。

それだけつぶやくと、最後に蝋燭の火を消した。

あのカノンも出てくるタイミングも掴めないし……手伝ってくれる気がしない

所謂、ポ○モンぽい別の何かである。

元々、人の街を守るための技術だし相手のことは考えてないだろうし、と呟く