「あの男は性に合わん。なんだあの悪辣眼鏡！今度会った時は容赦せぬわ！！」

「無理をさせてしまってすまないね」

戻った際の画面越しに久々に見た義弟のにこやかな笑みを思い出し、心底彼女に同情する。
苛立たしげに目を伏せる彼女に向けて、カーフェイネスは苦笑しながらそう呟いた。
並行したまま首筋に手を当て、怒りを宥めるようにゆっくりと滑らかな肌を擦る。
歩みはそのままに。だが顔の向きは正面ではなく斜め上へと動かす。
視界の中には、人の手によって作られた堅固の砦の一部が映りこんでくる。所々に亀裂が入り、
だが、城の番人としての威厳は損われずいまだ一片たりともその威風を失ってはいなかった。
時代が積み重なるごとに刻まれる跡。苛烈さの中心としてこの建物が存在していたことが感じ取れる。
白、に近い色合い。建物の隙間から降り注ぐ光を受けて揺れる紫の鬣。カーフェイネスよりも高い位置にある細長い顔。
この様な場所にしても堂々とした歩みは、まるで騎士の出立を彷彿とさせる。騎乗していたのは神というのも納得が出来る。
白亜の壁に溶け込む肌だが、夕方の日を浴び一つ一つの動きに陰影が現れることで燦然とした輝きを放っている。
美しい光沢を放っている彼女は芸術品のようだなと、胸中で呟いた。

「付き添いの子はどうだった？」

「ふむ。あのぼやっと口を開いている間抜け顔の娘か。あれは中々良い。飾りっ気が無く華やかさに欠けているが
　あのひたむきさには好意が持てる。だが危なっかしい子娘よ。余の寝所を用意してる間、子狼共と、御付きの童に纏わり付かれておったぞ」

「あぁ……師匠の子ども達と彼だね。彼女は優しいから好意を持ってる子達をなおざりには出来ないんだよ」

「あの娘の性質故か、ハッキリと言えぬ娘よ。……だがあの童め。図体がデカイのも気に食わんが、何という虚を抱えておる。あれでは腐り幹の方がまだ見れたものだ！盲信と傾慕は決して同質とは言わんぞ」

「そこまで彼女は疎くないさ。彼女もあそこに居て日々成長している。それに彼女だけの問題でもないしね」

そうか——と、小さな嘶きと共に、彼女の姿が徐々に薄れていく。
カーフェイネスが砦にある門を潜った後、その場には彼しか認めることが出来なかった。

「さて……」

視界の端で、緑色の短髪の男が髪を掻き上げてるのが見える。
そちらへと視線を移し、

「ここを通らせてもらうよ」

拳を握りしめる。
なるべく早く合流したい、先ほどからお腹が空いてきたのだ。

肉まんの皮を指差しながら、手についた肉汁を
ぺろりと舐め

この世界の住人ではないでーと言っている。
ドールなどはこの世界ではエンブリオの立ち位置にいるだけのようだ。

挑発しているトカゲにそわそわしている……
ついに耐えきれなくなって、自分自身についている糸で反復横跳びをしているトカゲの足を引っ掛ける。
……四足歩行にはちょっと無理あるんじゃないかな