あの屈辱的な敗北は、何かの間違いだったのではないのか。

そう思えるほど、逆に圧倒的な勝利を挙げ、庭園を行軍する。

しかし油断は出来ない。

警戒しつつ歩を進めていると、再び人影を見つけた。

弟を思い出させるフォレストグリーンの短髪に、黒いコート。

水色の髪の赤ん坊を抱いた男に身構える一同。

しかしガルだけは、驚愕と、疑念と、恐怖と、怒りと…

様々な感情が入り混じった表情を浮かべ、硬直していた。

幸い、殿を務めていたため、同行者達は気付かない様だ。

「…ふむ、これが例の一揆衆とやらか。
　私の名はサバス＝ルナティリウスという。」

男はこちらに向き直り、名乗る。

「こいつは…私の可愛い助手だ、気にするな。」

誰かが視線を向けていたことに気付いたのだろうか。

腕の中の赤子の顔を見つめ、その後こちらをじっと見つめ返してくる。

以前遭遇した兵士のような敵対者ではない様子に、少しだけ同行者たちの警戒が緩む。

「ふむ……君等もしくは君等を動かす者達のなかに、ウルドスピンを知っている者はいるのだろうか。」

しかしガルの表情はさらに凍りつく。

「当事者を時間軸共々洗い流した、世界を素晴らしくカオスに変貌させたサウスエルタの現象だ。」

ウルドスピンという言葉は初めて聞いたが、その現象には心当たり…どころではなく、

ガル自身、50年前に実際に経験したことであった。

偽りの島と呼ばれた島で起こった、世界樹を切り倒すための戦い。

その防衛機構か、世界樹の葉が転じた戦士たちの中に、目の前にいるサバスの偽者もいた。

当時、同じく何者かの偽者であったらしき召喚術士の少女に召喚された彼の偽者は、

何か不都合なことでもあったのか喚く偽者の少女と言葉を交わした後…

なんと、唐突に服を脱ぎ、こちらに攻撃を仕掛けてきたのだ。

退けることはできたものの、そのまま一人だけ昇天した彼の偽者は、

ガルの心に大きな衝撃を与えていったのである。

その後、機能を停止した偽りの島を押し流した大津波——それが今、彼の口から出たウルドスピンなのだろう。

そのウルドスピンに他の冒険者達もろとも巻き込まれた記憶すら、蹴り飛ばす勢いで唐突に突きつけられたトラウマに、

「私の目的はその際に偶然私と変動時間幅の一致した者たちへの助力でもある。
　君等にも大いに助力してもらいたいものだ、が……」

こちらのことなどお構い無しに、メモ帳をめくりつつもまともに聞こえる話を進める彼、サバスが、

「……サウスエルタの件は経験者も少なくない。
この地に集まったなかにも知る者はいるだろう……いずれ分かることか。」

いつまた服を脱ぎだすのではないかと、後ろ手にはたきを握らざるを得なかった。

もちろん、偽者の記憶を本物が持っているわけではないのは理解しているし、

何より、あちらにとっては初対面であるのも分かってはいるが、

本物がいるから、偽者がいたのだ。

本物が脱がない、攻撃してこないなんて保障は、どこにも無い。

だが、予想に反してサバスは

「まぁ今はただ流れに乗るがいい。
　私も今は……可愛いエンブリオちゃんたちに夢中なのでな。」

好きなだけ語った後、満面の笑みを浮かべ、去っていった。

いきなり語られた未知の世界、現象に若干困惑しつつも、彼を見送る同行者達とは逆に、

大きな頭痛の種がまたひとつ増えたことに、心の中で頭を抱えるガルだった。

＞カーフェイ君

＞ガル君

＞ティシア君

どっちかっていうと、天然方面でした。

>ガルさん
怒気を孕んだ声。瞳に浮かび上がるのは紛れもないこちらへと受かった悪意と苛立ちと落胆、そして、刺すようなプレッシャー。
カチリとカーフェイネスの中にある、それが外された。

顔面蒼白。ノンブレス。身体は硬直し、酷い汗だ。そして土下座をする様な態勢をとり、そのまま身体を小さく震わせ、尻尾は彼の身体にぴとりと触れさせていた。額を地面へと打ち付けながら尚、滔々と零れる謝罪の言葉は壊れた機械の様に滑稽だ。
まぁ、要するに。壊れた。

今は、一揆が発生している。そんな状況でケーキが食べられるなんてなんて幸せなんでしょう。

普段はダイエットで我慢している私であったが、さすがにこの誘惑には勝てなそうです。

パクパク食べるプララを見つつ、私も一口いただく。

口の中に甘みが広がり、幸せな気分になった。

*何かを発見して嬉しそうだ*