街道が見える壁側とやや天井に近い所に備え付けられている窓に覆われた一室を通り、カーフェイネスは暗闇に慣れつつある目で周りを見回した。

（窓が開いてる）

月の光が窓に掛かるカーテンを揺らし、それによって影と月光が朧げに室内を照らしている。
元々カーテンは窓を覆っていたのだろう。だが風に煽られてるうちに、徐々に押しのけられる様に動いていき、今は室内に月光の筋が床に広がっている。

その揺らめく光に導かれたのか。淡い灯火の下。外からの月明かりが照らす中で、ルーチェが椅子に座ったまま寝息を立てていた。
僅かに首を横に傾け目を閉じている。
普段前髪を止めている花のヘアピンを外しているため、赤い髪が僅かにほぐれ、頬に掛かっているのが見えた。

「ん……」

温かくなったとしても、まだ夜の風は冷える。カーフェイネスは彼女を起こさない様注意しながら窓の近くに移動した。
この部屋の窓は、2つのガラス窓が組み込まれ、左右に滑らして開閉できるタイプだ。

鉄で出来た枠に手を掛け、横に滑らそうと思ったら、

「んん〜……」

寝台の感触が悪いのか。上体を僅かに身を捩る動きをし、尻を小さく前へと滑らせる。更に彼女はヒールを脱いだ両脚を椅子上に持ち上げることで、椅子の中に身体を納めた。
チェアカバーに頬を擦り付け、背を丸める姿勢をとると、自然と身体は横に向いていしまう。こちらの方へ。

「わ」

吐息と共に、ルーチェが身の力を抜いた。再び寝息を立てたルーチェを見て、言い様のない安堵が胸中に広がる。

「でもここじゃ、少し寒いよね」

苦笑し、背後にあった窓を今度こそ閉め鍵を掛ける。
そして上体を傾け、やや躊躇った後、彼女の米神部分にキスを落とした。
両脚の膝が立てられたことで開いたスペースと薄い背に腕を伸ばし、一息で、しかし慎重に持ち上げ、ゆったりとした歩みで寝室へと向かって行った。

（そういえば、さっき風を切るような音が聞こえたけど……何だったんだろう？）




〜その頃〜

「おいどうなってんンだ！誰か説明しやがれ！！」
「そんな余裕無いですのよー！！」

カーフェイネスの持ち物の一つ。薄い携帯電話の中は混沌で満ち溢れていた。

「何で芋が落ちてくんだよ！！」

それは突然起こった。頭上、光のフレームが出現したと思ったらそこから、大量の塊が降って来たのだ。
ごつごつした土色の肌。見た目からも重厚感が感じられる。彼等が立つ地、地面に落下してもその身は砕ける事も無く、幾度か転がった後、砂の様に消えていく。
彼等は地中の申し子。その名は——じゃがいも。
そしてその刺客は彼等だけでは非ず。

じゃがいもの他、玉ねぎ、そして小ぶりの梅がこの空間で満ちていた。
わあぁぁぁ？！！とエンブリオ達が逃げ惑う。

「こんなの当たったら洒落になんねぇだろ！！食い物は大切にしろ！」

機械の前足を駆使しながら、メテオレイン並の野菜粒をキラーウルフが躱して奔っていた。
その内並行して走っていたオルトロスが、

「おい、上見てみろ！」

その声に促され、奔る速度を落とさずにそちらを見上げると、

「×999からカウントしなくなったぞ！カンストしたなら入れるなよ！」
「くっ、そもそも俺は野菜が嫌いなのだ。無駄にパサパサして、水ッ気ばかりで、俺の舌に合わぬわ！持ってくるなら卵持って来ぬか卵を！玉しか形捉えてない愚か者め！」

逆切れしたヒュドラに大自然の怒りが降り注いだ。
ひぃ、と皆が声を上げる。誰もが顔を見合わせ、前方に見える雨が途切れた場所を目指す。

——おじさん、空から槍が降ってくよ！
「容量超えたから、こっちの統括システムが加工品で納めにきやがった！」

眼前、ポテトフライランチャーをステップで躱し、駆動音と熱の籠った煙を後へ流しながら、只管、前へと脚を滑らせていった。