日の入りが早くなってきた、と徐々に影が彼の体の上に重なる感覚を得ながらそう思う。
最近では朝と晩がやけに冷え冷えとした風が吹く様になったものだ。
地面に横たわった彼は簡単な毛繕いをしていた。先端が尖った細い毛を丁寧に舌でなでていく。
それによって彼の周辺には小さな毛がばら撒かれていた。
そしてそれは、乾いた風と共にいずこかへと飛んでいった。

「ここに居たんだね」

声を掛けられる。だが彼はやって来た彼の方をちらりと横目で見ただけで、毛繕いを止める事はしなかったが。
未だ毛繕いに勤しむ彼に、カーフェイネスは小さく苦笑を零した。
彼の背側に設置されていたベンチへと座る。

「生肉とは言えないけど、食べるかい？ここのサンドイッチは中々美味しいと評判なんだ」
「加工品はあんま喰った事がねェな」
「加工品というか燻製だね。店主が余った食品を使ったサンドイッチを安く売ってくれてね。これは肉メインというよりか包む野菜をメインにしていたんだけど、下ごしらえする前の肉も使ってもらったんだ」

手作りみたいだ。店主自ら山に籠り、野獣同然の姿となりながら下山する事で荒ぶるパンチと自然の調和がきいたサンドイッチとして有名だ。
この肉はどちらかというと、エンブリオ用として使われていた部分を使ってもらったので味付けの方は淡白だが、パンとレタスの隙間にひいたカッテージチーズとササミをちらしてあるので、味の濃厚さはこれで補える。
彼はすんすんと鼻を鳴らしながら、カーフェイネスが差し出したサンドイッチの匂いを確かめる。
中々良い反応だ。

「旦那はどうすンだよ」
「これとは別に簡単なパンを買ったんだ。それに僕はちょっと肉が苦手でね」
「旦那の方が体力必要じゃねェのかよ」

もそもそとソラマメ入りのサンドイッチを食べていた動きが止まる。

「体力は自信があるよ。うん大丈夫。家にいる時に比べれば…くら、クラベレバ……！」
「旦那、俺が悪かったから痙攣起こしながら遠くを見るのをやめろ。茶がすげェ零れてやがる」

取りあえず片手に持っていた紅茶の缶をベンチの上に置くことで、さらなる被害を防いだ。

「まぁ、仕事をするには支障は起こさないよ。勿論、彼女もそれを分かって行動しているさ」

ふぅ、と息をつくと落ち着いたのか、また軽い食事を再開する。
地面に置かれたサンドイッチを食べていた彼は、口の中の物を飲み込んだ後、じっとカーフェイネスの姿を見つめる。
緩やかな笑みを浮かべた双角を持った彼を。

「あのガキがうるさくて適わねぇ。何とかなんねェのか」
「う〜ん……、場所が制限されてるわけじゃあ無いから、狭く感じる事はないと思うけど……」
「何処へ動いてもちょろちょろ着いて来たがる。おまけに毛が燃えそうにもなりやがった」
「ははは、すまないね。今度、同室者に僕からも言っておくよ」
「……ガキが旦那と会った時のことを教えて欲しいと言ってんだがよォ」
「言いにくいのかい」
「……まァな」

がさがさ、と紙を片付ける音が聞こえた。どうやら先にカーフェイネスの方が食べ終わったらしい。

「それは君が言いたい時、話してもよいと感じたら話すといいさ。“骸”の事はなるべく部外者が話すべきではないと思うけど……、君たちはそうも言ってられないからね」
「旦那はどうなンだ」
「この位の事は平気さ。ただ、話すのならここでは駄目だよ」

あの空間で、という事か。

「だがいいのかよ、旦那はよォ」
「僕かい？……あぁ、うん」

一瞬、首を傾げかけたが、すぐに合点が行ったように頷き、

「君に任せるさ」

そう言い、冷めた紅茶を口に運んだ。

＞カーフェイさん

怒りモード継続中。
否、最悪のタイミングでやらかしてしまった、と言うべきだろうか。

数秒ほど、たっぷりと間を取って二言目を告げる。

分からないなどとは言わせない、と言った雰囲気である。

懐から出てきたヤツには驚きもせず、
ひょいっとコインを拾って、カゲーと鳴いたヤツの目の前でくるくる回す。

なんてケタケタ笑っている。

プララは意味がわからずキョトンとしているのに対し、サニーの顔を真っ赤にして固まっている。

誰とも視線を合わせないで、勝ってにうなずいている。

*何かを発見して嬉しそうだ*