「さて、と——」
日記帳をパタンと閉じる。
こちらにきてあった事を記載した日記ではあるが、
途中から
変わらぬ毎日に飽きて、
読み返してみたけれど、
大した事を書いて無いのに気づいた。
その分最初のうちは濃密に書いてあるだけあって、
ああ、飽きたのね。
と物凄く分かりやすいくらいに。
もう少しでこの一揆も終わり、
私は元の世界に帰る事になる。
仲間達との別れの挨拶もしなければならないが、
その前に何か最後の思い出くらいつくっておこうか……
そんな風に思っていたのだが……
「いまいちぱっとしないのよねぇ……」
これといって良いアイデアはでない。
何か過去の出来事をプレイバックしようにも……
しっかり書いてた連中に関して思い返しても今更だし、
あまりしっかり書いてない連中を思い返そうにも……

「……っだぁら、
　通せって言ってんだろうがよ。」
乱暴な口調のアヴィドに、
「研究棟に知らない人は通せないって言ってんでしょうよぉ。
　ファルマさんは任務に忠実なのです。」
全く取り合わないファルマ。
「だぁから、
　俺はアヴィドだって名乗ってんだろうが……ッ！！」
「名前だけじゃ知らない人も当然ですったら！！」
「っはぁぁあ！？
　なにか！？
　俺の全てを晒せってかぁ！！？
　何だてめぇ俺のオンナ気取りか！！？」
「っはあぁぁあ！？
　誰が誰のオンナですって！？
　ヘンテコな服来た浮浪者がッ！！」
「てめぇのほうがヘンテコだろうがぁ！！
　レディースの特攻服か何かかそりゃあぁ！」
「なッ……これは白衣ですぅ！
　それはもう綺麗な白衣だったんですぅ！！
　これは日頃の血の滲むような努力の結果なんですよったら！！！」
「マジかッ！！
　本気で血が出てんじゃねぇか！！！
　大丈夫かッ！！？」
「大丈夫！
　ありがとうッ！！」
「そうか良かった！
　それじゃここ、通るぜ！」
「はいはーい！
　って、なるかあぁぁッ！！」
息をつかせぬ恐るべきやり取りをしていたけれど、
どうみても漫才。
漫才コンビでいいわよね？
この２人。
森林の奥深くにいたアヴィドとファルマの漫才コンビにかんしていえば、
正直な話、
ファルマがサタンという大悪魔を召還したはいいが、
学者肌で戦闘タイプではないファルマに、
混乱の最中突破していったアヴィド、
十全な力を発揮できない様子のサタンという燦々たる有様では、
これといって特筆する事もなく研究所へと突破できた。
……道中の奴ら……
特にアリエスやイケメンゾンビらの、
異様に固い連中の方が余程手ごわかった為、
漫才以外改めて思い出しても正直特筆すべき事がない。

ノーライフキングに関して言えば、
完全な相性勝ち。
残念ながら当然というくらいしか言いようが無い。
安息の死を与えつつ、
元凶は取り込んだのが私にとってのラッキーであり、
面白い事といった所か。

「よ、よく来たわね一揆の連中ッ！！
　私に見つかったからには、
　に……逃がさないんだからッ！！」
「……フロラ、下がれ。
　私が相手ヲする。私が望ンだことだ。」
「なに言ってんの！？
　望みの大元は私のことよ！！
　黙って見てなんていらんないわ！！」
「ィや……」
「いいのッ！！」
「……」
「さぁ、覚悟しなさいッ！！」
立ち入る隙もない、二人だけの空気を生み出して、
問答無用だったダイゴとフロラの２人に関してはもう、
２人で適当に仲良くなって貰いたいとしかいいようがない。
もういいからいちゃいちゃしてなさいよ、と。
何か事情があるのは察しているが、
流石に事情が分からないまま始まって終わったのでは、
そうとしか言いようがなかった為、
特に思い返したくもない。

次は黒騎士だけど、
なんていうか、中身が無い。
「……ほぅ？」
最初見た時は大物ぶっていたし、
「な、なんだぁぁッ！？」
「……？？」
困惑を隠せないギルとシズクと違って。
でも、態度とは裏腹に、
戦い自体は、
借り物とでもいうようなのが分かるように、
今まで出会った奴らとか、
いまだ出会ってないけど、
他で待機したり現れた存在ばかりで、
肝心の黒騎士自体はさほどではなく、
強かった事は強かったけれど、
借り物の強さなだけで、
中身はないものだった。
なので、このまま中身がない戦いという事で、
なかった事にしてもいいと思う。

「ここまで思い返してみたけど、
　何か酷いわね。
　私の感想も大概だけど。」
それにしても、もう少し良い思い出とか、
苦労話とかあってもよさそうな感じかもしれない。
後はつい最近の事になるが、
漫才コンビだった片割れのアヴィドと、
マルクスだが——
順序が前後するが、
先にマルクスについて、思い返してみよう。

「我が名は、マルクスッ！！
　かの隠者マルクスバレッジと同じ名を持つ、
　それを超えた存在ッ！！」
「そうか。……病んでいるのだな
　伝記上の人物等を相手に超えるだの萌えるだの言っている輩のことだ。
　この世界では「病んでいる」と言う。」
テンションが高いマルクスと、
冷静に反応するサバスとのやり取り。
こちらとしてはぽかーんと見ているしかなかったけれど……
サバスの弱点といえる嗜好をつくのに、
メイドをそろえるのは正直どうかと思う。
それに歩行雑草で対抗するサバスもサバスだけど、
これ本当になんの戦いだったのかしら？
まぁ、サバスが納得して満足したようだし、
別にいいかといった感じだが、
正直いって、そっちで勝手にやってくれない？
巻き込まないでといった戦いだった。
……改めて思い返してみたけど、
これは酷い。

「……ロクな話じゃなかったわね。
　後は……アヴィド、ね。」

思い返す。
強敵ではあった。
一度は決着つかずにまでなった相手だ。
「ギル……何をもたもたしているのやら……」
ギルを待つ三人と、
何をするでもなく待つアヴィド。
そんな中、
シズクに支えられ、
「……ッ　
　……最悪だ。
　うっせ！！
　こちとらただの田舎育ちの一般人だっつの。」
遅れてやって来た事をからかわれ、
どなるギルがやってくる。
それを見てアヴィドは闘う気になったのか、
「……さて、役者も揃ったところで……
　悪いが皆殺しだ。」
構えをとる。
「はぁ？？
　何でそうなるのさ。
　君が倒したいのって僕だけじゃん？」
だが、因縁があるのは、
ドロワだけのようで、、
ドロワ本人もそれを知っているらしく、
アヴィドの皆殺し発言には驚いたようだが……
「お生憎、
　親父からの教えはなぁ……
　お前の親父に関わる奴ら全員ぶっころなんだわ。
　だからあんたらぶっころ、
　ベルクレア全部ぶっころ、
　同じ空気吸ってる一揆な連中もぶっころ。
　……ま、楽しけりゃ何でもいいんだよ。」
アヴィドの考えは、
正直はた迷惑以外の何者でも無い感じである。
しかし、
たった１人で私達とギル達５人にたいし、
引けをとらないどころか、
痛み分けにまでもっていくほどの力があった。
２回目の時とて、
ドロワだけは倒していた辺り、
さすがだと思う。
「……ふぅ、ちょっち粋がりすぎたかねぇ。
　はいギブギブ。」
ま、でも、色々いってたけど、
結局自分が闘いたかっただけな辺り、
本当にめんどくさい男だと思う。
ぜひともドロワとの一騎打ちはみてみたくはあるが……
まぁ、流石に見学は許してくれないだろうし、
放置するしかなさそうなのが非常に残念。
ちなみにこの後マルクスと戦ったわけだけど、
正直な所——

「改めて思い返しても思うのは、
　会話に首突っ込む余裕がないわよね。
　こいつら。
　まぁ、別にいいんだけど……
　思い返すだけ無駄なのがはっきりしただけの気がするわ。
　……これは酷い。
　でも、まぁ……
　これで全てかしらね。
　一揆関係での主だった所は……」
ほかの事に関しても思い返せば色々あるのだが、
いちいち思い返していたらいくら時間があってもたりないし、
さりとて特別面白い事があったかといわれると、
疑問が残る。
だが、とりあえず日記に思い出した事を記し、
日記を閉じる。
次に開くのは、
元の世界に帰ったその時だろう。
そういえば……
前回は水に押し流された形だが、
今回はどうなるのだろうか、
穏当な方法であればいいのだけど、
覚悟だけはしておいた方がいいかもしれない。
とりあえず、
私が今やるべき事はというと……
「お土産……かしらねぇ。
　今もってる素材持ち帰れば、
　十分なお土産になるかしら？
　折角の旅行なんだし、
　しっかりお土産を持って帰らないといけないわよね。
　後は……」
何かあったかしら？
と手帳を取り出して思案する。
別れの挨拶には少し速いし、
エンブリオに関しても、
どうせ私に憑いているようなもので、
元の世界にもどっても、
大して影響もないだろう。
寧ろ扱いやすくなったくらいの気もする。
力をもった霊は私の縁者だから、
少なくともこちらの都合が悪い事はしでかさず、
押さえにもなりうる。
扱おうとすれば扱いづらい連中なので、
基本的にほっとくのがベストだけど。
——しかし、
暇というかなんというか——
やる事はあと別れの挨拶くらいで他にやる事はないし、
ほんとどうしようかしら？
ああ、そうだ。

「で、なんで私が連行されてるのかな……？」
とりあえずアルネスさんだけを連れ出す。
「だって一番力あるじゃない。」
「否定はしない、
　否定はしないけど……」
「？
　適材適所だと思うのだけど。」
「うん。そうだね。
　分かってるし、
　間違ってはいないよ。
　でもさ——
　おかくしくね？」
「何が？」
「なんで魅月さんは何ももって無いのか。」
何をしてるかというと、
最後にぱーっと宴会でもやって終わるための買出しである。
そして、アルネスさんが何故文句をいってるかというと、
私は何も持たず、
全ての荷物をアルネスさんに持たせているからである。
「私作る人、
　アルネスさんは運ぶ人。
　何も問題ないじゃない。」
「ウン、ソウダネ。
　問題ないけど、
　そうはっきりいう人ってあんまりいないよね。
　っていうか、
　それでも少しくらいもつの手伝ってくれてもいいんじゃないかな？」
「やだ。」
「デスヨネー。
　うん。手伝ってくれないって分かってた。
　うん、分かってたよ……」
「まぁ、このお礼はきっちりしてあげるから、
　楽しみに待ってなさいな。」
「嫌な予感しかしないんだけど」
「楽しみに待ってなさいな。」
「いや、あの……」
「楽しみに待ってなさいな。」
「永久ループだこれぇ！？」
「楽しみに待ってなさいな。」
「ウン、ワカッタ。
　待ってる。」
まぁ、色々文句があったようだけど、
容赦なく黙らせる。
完全なごり押しであるが、
これくらいごり押しするのは存外効果的であるから仕方ない。
まぁ、しぶしぶとはいえ納得したようだし、
後はきちんとお礼をしてげればいいだろう。
きっちり約束したのだから、
それくらいは果たさないとよくないと思うし。
うん。
「よろしい。」
「でも、こんなに沢山買う必要あったの？
　なんていうか両手一杯で、
　すっごい重い気がするんだけど。」
「？」
「……
　なんで、そんな単純なことも分からないの？
　みたいな顔してるんですかねぇ……？」
「え。だって、
　私が誰相手につくると思ってるのよ。」
「え？
　だってペルチェさん食べないから実質三人……」
「エモさん。」
「……あ゛。
　すっかり忘れてたけど、
　あの人何人前食べるんですかねぇ……？」
「分からないっていうか、
　多分上限はないわね。
　あればあるだけ食べるんじゃないかしら？
　際限はないわ。
　けど、ある程度食べればそれなりに満足するから、
　で、それくらいだと折角のパーティの意味が無いから、
　更に倍。
　で、その分量。
　オーケー？」
「オーケー……
　うん、理解できた。
　それなら仕方ないね。」
「そうよ仕方ないのよ。」
納得できたようで何よりである、
そのままアルネスさんにきっちり運ばせて、
料理に取り掛かる。
分量が多いけれど、
問題は無いというか、
慣れた。
今更多少量が増えた所で問題は無い。
すばやく調理していく。
まだ夜までには時間があるとはいえ、
ぐずぐずしていては、
料理が間に合わなくなってしまい、
折角のお別れパーティに私が料理で動けないとなっては、
本末転倒。
それでは意味が無いのだから。
幸いにも、調理中にハプニングがおこる事はなく、
順調に私は料理を完成させていく。
ちなみにペルチェさんには折角なので、
パーティの為にテーブルや椅子、
食器の用意などをお願いしている。
ま、精一杯楽しみましょうか。
ペルチェさんは食事は食べれないけど、
皆が喜ぶのがとってもすきだもの。
一緒に楽しむのがきっと一番のいい事だと思うから。
さて……それじやあ、
私達のこの旅の総仕上げと行きましょうか。