葬式場帰りでこんな場所に来る酔狂な客もいたものだと、初めて見た時はそう思った。
真っ白な長髪に黒以外の色を纏わない首から下。全身黒装束を見てまず思い当たることなど、そう多くはなかった。だからこそ、場にそぐわぬその色はいかにも目立っていた。
僕のいた場所はスタジアムアリーナ。葬儀の厳粛さや静寂とは、いかにもかけ離れた場所だったのだから。




闘技大会の試合を勝利で飾り、控室を出て、再び元通りの旅路を行く。
ドールは相変わらず頭の上だし、アルラウネは蔦状に姿を変えて片腕に巻き付き、仄かな芳香を放っている。
契約者や性質によりさまざまな形をとるらしいエンブリオは、僕のものに限ればある程度一定の性質を持っている。エンブリオにより幅はあるものの、おおむね人間のものでない、動物や植物に似せたある一定の姿形を持つこと。鳴き声のようなものを持つものはいるものの、人語を話さないこと。
そして現状、その唯一の例外は。

「ねえ。あんたって、知り合い多い方？」
「なんだね、藪から棒に」

頭程度の高さを行くこのパロロコンだ。問えば答える、という程度の頻度ではあるものの、自ずから喋り、時には謎めいた言葉をも残す。
あの対戦相手を見ての一言のように。

「ほら、あの対戦相手の傘持った子。言ってたでしょ？　昔の知り合いだってさ」
「ああ、そうだよ。……まあ、顔や姿を覚えている程度のものだ。あのように身に植物を寄生させて、それで平静であるという者はなかなかいない」
「まあ、特徴的といえばそうか。……それでさ」

いつ会ったの。
そう問えば竜は可笑しげに、笑い交じりの口調で返してくる。

「そこまでは覚えていないね。……にしても、訊くに及んで何故そんなことを？　詮索が好きなようには思わなかったが」
「あんたが詮索したくなるような奴なんだよ」
「それはそれは。……私はただの『嫌われ者』のつもりでしかないのだがね」
「ただの、にしちゃあ謎が多すぎる」

指折りひとつ。
「僕をぽんと異世界へ飛ばしたこと」
ふたつ。
「戦闘訓練さえ受けていないはずの僕を、エンブリオの力を借りてとはいえ生身で戦えるようにしたこと」
みっつ。
「テレパシーみたいなものと、それで僕を『見ていた』こと」
よっつ。
「エンブリオを相手に、あっさり仮死まで追い込んで乗っ取りできること」
そして最後に。

「僕があんたと会ったのが、魔法のあり得ない世界であること」

開かれた片手を掲げて、竜を見据えた。表情のない爬虫の瞳は、ただ真っ黒にこちらを見つめている。

「これで詮索しない道理がないじゃないか。
　あんたは一体全体どうやって、あのいろんなことを実現している？
　何度も言ってるけど、僕はあんたを」

悪魔か、化け物のたぐいだと思っている。

そう宣言すれば、闇色の瞳は笑みの形に歪む。それは自嘲のようにも見えたし、心から喜んでいるようにも見えた。

使えそうなものと見るや、素早く取って懐へ入れてしまう。

14歳くらいの獣耳に獣しっぽの少年が挨拶をするとぺこりと頭を下げる。
依頼された品を包みから出して確認してもらい、問題がなければ嬉しそうな笑みを浮かべてもう一度ぺこりと頭を下げただろう。