僕がこちらで使っている名前、赤井 卍人。
はっきり言ってしまえば芸名である。
だったら本名はどんなのだ、と言われれば　天野 真卜（あめの まうら）と答えるんだけれど。

さて、最近になって頭をよぎる問題の中に実家である天野家がある。
世間様的には……製鉄を基盤にした重工業を主軸に、手広く発展している天野グループ。
その会長が僕の祖父である　天野 真浦　だ。
また大変に歴史が古く、家系図を辿れば鎌倉くらいまでは遡れる程度には由緒ある家系らしい。
……僕が調べた訳ではないので、由緒についてはアヤフヤだけれど。
まぁ、由緒ある家系にはそれなりの面倒臭さもあるわけで。
祖父である真浦が言うには「当主にはマツリゴトやシキタリがある」そうで。
その祖父が次期当主にしたいのが、僕。
初孫ではあるけれど、なんで父じゃなく僕なのか。
この疑問はある程度の年齢からずっと疑問に思っていた。
祖父は忙しい人だから、中々会って話ができないと言う一因もあったけれど……知るのが怖いって言うのもある。
知ってしまったら後戻りができないんじゃないかって根拠のない予感。
勝ち組のレールだなんて言う人も勿論いるし、客観的に見れば間違いないだろう。
ただ、天野グループを継ぐって事は大量の部下が一瞬にしてできる事でもあり、自身の失敗で不幸を量産してしまう事でもある。
そうならないように、大学では経済や経営の勉強を怠っているつもりはない。
実務経験が無いから頭でっかちなのは否定できないけれど。

本音を言えば、役者稼業も小さな反抗心みたいなものも多少はあるわけで。
だからと言って手抜きをするつもりも、してたつもりもないんだけれど。
閑話休題。

ある種、息苦しい生活だった中での突然の一揆だったわけだけれど。
そこで知り合った人と会話して、理由だけでも問い詰めたらどうか？って言われたんだよね。
……確かに、いつまでも逃げ切れる問題じゃない。
忙しいだろうけれど、覚悟を決める事にした。


「もしもし、お爺様ですか？」

単に運が悪いだけともいう。

火照りの覚めぬ様子の卍人に、再度接近して左目・・・というよりも左頬に唇を——て待て、そこ。

それでも主の声には逆らえないのか、離れようと身を引きかけ・・・だが笑みを絶やさずに
再び耳元へ唇を忍ばせて囁く。

そう言って身を引くと、今度は笑みを浮かべたままデルタにしなだれかかる。

毒のある甘さを含んだ声で責めるミアンヌは、とても愉しそうだった。

*何かを発見して嬉しそうだ*