「あなたとの契約に三つの役割を与えるわ」
オコジョを前にしてメィレーが言ったのは、それ。
これまではただの契約であったが、それに明確な役割を添えて契約すればどうなるのか、という好奇心が一つ。
それから、方向性を加えて契約することによって力が絞られて強力に発揮できるのではないかという思惑が一つ。
最後は彼女の思いついたこと。

「まず一つは、『集積』。今から生命力の代わりとして契約に使用するこの魔力を、あなたには集めて欲しい。一日の終わりに、全てを吸い取る形で構わないわ。」
【減衰】を手に入れたことで【増幅】の力が少ない魔力でも魔法が使えるレベルまでブーストすることができるようになった。それから、キラーインコとミニドラゴンの力を使うことで、彼女自身の魔法を使わずとも彼らに魔力を流し込むだけで済む。これは魔法を使うよりも遥かに消費が少ない。
その結果、彼女の使える魔力はメルンテーゼに来た当初よりも相対的に見てかなり増えていた。眠りにつくまでに余る日も少なくない。

二つ、『貯蔵』。集めた魔力をそのままあなたの体内に保管しておいてほしい。もちろんそれに適した形にあなたがなる必要性があるから、恐らく物理的な形は保てないでしょうけれど。」
眠りは魔力を回復するのに一番効果的な物だ。どんなに底を尽きても一晩眠れば全て回復している。
だから『余り』は無駄なのだ。それを集めることさえできれば、そんな無駄は無くなる。

「そして、最後の三つ目は——」

魔力さえあれば、どんなことでもできる。…それに付随するデメリットさえ見なければ。
それは、元の世界のときにいた彼女が思っていたこと。
——ならば、どこかにそれを集めておき、好きなときに扱うことができるのであれば。それができるのであれば、彼女は元の世界とほぼ同じ強さを取り戻せるのかもしれない。そこまでは行かなくとも、もっと大きな魔法を扱うことは可能になるだろう。
それが彼女の『思惑』。



「最後は、『解放』。集めた魔力を私の合図で解き放ち、私の周りに漂わせて欲しい。…もちろん、余剰分はもう一度集積してもらうわ。
…どうかしら。この条件で契約してくれないかしら？」
右手を差し出す。その手のひらには、ネクターと、——オコジョには見えないかもしれないが——魔力を、少し。
愛くるしい姿をした白い動物は、メィレーを見つめた。
ぱちぱちと目を二度三度まばたきさせ、尻尾をゆらりと動かした。
わかっているようなわかっていないような——じ、とメィレーを見つめるその瞳は、とても純粋だった。
それを、ふ、と閉じる。そのまま猫のように丸まった。


——契約は失敗、したのかもしれない。そう思った矢先———オコジョの体がふわりと穏やかに光り出した。
溶けるようにゆらゆらと、白い体が崩れ始める。







ふわり、浮かんだ光球。
その中に黒い影が見える。その姿は、先ほどのオコジョと同じ形。
「………ああ」
契約は、どうやら成功したようだ。
手を伸ばす。
その光球の中からは、どこか自分に馴染むような、そんな空気が漂ってきていた。

　

　

「何故、急にそんな質問をするのだろう」というように、訝しげに頷く。

メィレーの手のひらの上にいきなり現れたりんごに目を丸くしながら、
言われた通りに、両手を差し出した。

そのまま、空中へと放り投げられるりんごを視線で追って——
いつまでも落ちてこない、と思っていたら、差し出した両手の上にずしりとした質量を感じて、手元に目をやった。

驚いた表情はやがて、わくわくとした、好奇心と尊敬が入り混じったものに変わっていた。