整備を終えたメカニックらしき男が、こんなもんだとばかりにパンパンと手をはたく。
その目の前では、箱を繋ぎ合わせたような物体が冷たい地面に寝転がっている。

ムッコロボの内蔵メモリーの記録によれば、男の名はガーフィールド(これは姓で、名は聞いていない)。
ヨツビシ重工に所属している機械整備士で、腕は確かだが自分の身の上をあまり語りたがらない。

彼が言うヒュッケとは、ムッコロボの兄弟機である試作一号機の事だ。
オーバーテクノロジーとも言えるブラックホール技術の導入が行われた機兵だったが、
制御に失敗しエンジンが暴走、工廠一つを巻き込んで消滅してしまった。
公にはされていないが、業界では有名な話である。そして彼はその工廠の数少ない生き残りだった。

大事故を経験した彼は、二号機には不安定なブラックホールリアクターエンジンではなく
研究が進んでいるプラズマエネルギーを用いたエンジンシステムを組み込むことを提案した。
搭載までには紆余曲折があったらしいが、これ故にムッコロボは安定した稼動状態を維持出来る。

…その飛行試験の最中に、ムッコロボはメルンテーゼへと転送されたわけだが。

自己整備も十全とは言えない。早く元居た世界に戻り、しっかりした整備を受けたい。
そんな思った所でどうにかなるわけでもない事を思いながら、ムッコロボは城の方角へと足を進めた。

通りすがりにポケットティッシュを受け取る。