ばたばたと暴れ、ほうほうの体で逃げ出す。
　乱れた着衣をおさえながら、はぁはぁと荒れた息を吐いて距離を取った。

　ふーっ！と、威嚇する妖狐。目が本気だ。

　くす、と笑い。

　ラーフィーの語る、生国の話題には腰を据えて聴き入った。
　本来、鼓という妖狐は相手の物語を聞くのが好きなのだ。

　伝承故の矛盾だろうか。
　まだ生き残っていた人間がいて、変質した魔法陣が性別を不安定にしたということだろうか。
　そもそも、性別不安定化を変だと知っていながら享受している理由がわからなかった。

　儂など、人間に比べてなんとひ弱な狐じゃろうと呟きながら。

　とはいえ、他種族の宿命にまで口出しする趣味はないと口を噤む。
　導いたものが英雄になろうと、導き手が英雄になれるわけではないのだろうし。

　セレスの呟きが聴こえたかどうか。
　だが。——と、狐は思う。
　導き手とは自覚がなくば出来ぬものなのか。導き手こそが導かれてはならぬのか、と。
　大切な相手と共に歩くことは、その旅こそが実は導きの道ではないのかと——。

　口にはしなかった。それは、僭越というものだからだ。

ハサミを鳴らしている

なぜかハサミを鳴らしている