夜更け、アイヴォリーは自らの装備を前にして何やら作業を行っていた。並べられているのは今まで使っていた長剣、革の鎧。長剣はそもそも前回新調したものだ。革の胸当てに関してはこの世界にやってきたときに装備していたそれをこの世界の素材で手直ししたものだった。各々の傍らには真新しい長剣と鎧の部品らしき雑多な構造物が積まれている。
　アイヴォリーはまず長剣を手に取った。柄と刃の接続部を注意深く見てから、柄の各部に埋め込まれたピンを小さな槌と工具で叩き出す。装飾に巧妙に隠されていた三本のピンを抜き出してから、アイヴォリーはおもむろに刃を掴むと柄から引き抜いた。
　明らかに固定されていて動きそうになかった刃と柄が、何度か力をかけて行く内に次第に動き始め、遂に抜ける。楔形になった刃の根元の部分を確かめると、アイヴォリーはそれを放り出し、新しい長剣でも同じことを始めた。新調した長剣をわざわざ分解しているのだ。
　新しい長剣の刃の部分を光にかざす。光の加減でうっすらと、星が集まったような霞が文様として浮かんでいるのが見て取れる。刃の様子を見定めると、アイヴォリーは古い長剣の柄に新しい刃を押し込み始めた。しっかりと柄に固定されたかどうかを確かめながら、新しい刃と柄のピンの位置がどれだけずれているかを確認する。これがきっちりと合わなければ固定することは出来ない。そうなれば、柄に新たに開口するか、刃の穴に合わせて長さを調節しなければならなくなる。もっとも、刃の長さは計算されて重量のバランスが取られていることがほとんどなので、出来ることならば刃の長さを変えることはしたくない。ピンの太さや長さも新旧で同じとは限らない。そもそも刃と柄で一組として構成されるものであるだけに、こうした作業は一般的とは言えなかった。
　長剣の作業が終われば、新たに制作してもらった革製の装甲を、普段から身に付けている革鎧に結合していく作業が待っている。こちらは革の装甲として依頼していた上に大きさや形状、重量までを指定して頼んでおいたのでそれほど手間ではないだろう。無論それはアイヴォリーの常識の中での話であって、一般的にはこうして自分で革鎧を構成し直す手間は多大なものなのだが。
　エルフの姿隠しの外套には、いつものように依頼して仕上がってきた留め金を付け替える。こちらはありがたいことに、ケープそのものが魔力を伝導し蓄積するように出来ている。それは本来の魔術の効果である光学迷彩、つまり姿隠しを発現させるためにそういう構造になっている訳だが、そのお陰で本来の効果以外にも、様々な付加の効果を発現させる発動体になるのだ。留め金のように基部になる品物に然るべき小魔術を付与し、それを外套の伝導の効果を使って拡散させる。効果自体は付与してもらった小魔法そのものにも及ばないが、こうしておけば魔術の使えないアイヴォリーであってもそれなりの効果のある魔術を戦闘前に付与しておくことが出来る、という訳だ。
　その後にも、武器や鎧のために付与してもらったいくつかの装飾品が残っている。これらを装備に装着して効果が発現するように準備しなければならない。装備を一気に新調したアイヴォリーにはやることが山積みだった。

「ヤレヤレ……コイツは朝までかかりそうだねェ。」

　それでも、そういうアイヴォリーの表情はどこか楽しげに見えた。