*+*+*+*+*+

*+*+*+*+*+

其処はメルンテーゼとは異なる世界。


空の光はやや薄く、むき出しのコンクリートや瓦礫に埋もれ灰色な家屋が点在する。
遠くには立派な塔がそびえ立ち此処とは明らかに異質な空間が広がっている。

国王が支配する小奇麗な街並みの外に存在する其処は俗に"スラム街"と呼ばれ
住む宛の無い者達が集まり暮らしている。

そんなスラム街に拠点を構えるある盗賊団のお話。


時は一時間ほど前まで遡る。

スラム街を南方に三分の一ほどの縄張りを持つ盗賊団ラビッツの拠点はコンクリート壁に覆われ何度も改修を重ねた形跡があり、瓦礫が散乱するスラム街の中では少し目立つ外見をしていた。

そこに一人の者が訪ねて来た所から話は始まる。



"コンコン"


木製の扉を軽く叩く音がする。尋ね人はもう一度叩く。


"コンコン"


すると中から「はぁーいー」という女性の高い声が返ってきた。

"ガチャリ"　ドアノブを捻りひょこっと扉から顔を出したのは桃色の頭髪をしたショートヘアーの少女である。
　

見に覚えの無い者だったらしく、少女は尋ねる。

少女はそう告げた尋ね人をまじまじと凝視する。
やや色の薄い黒髪に左右で異なる瞳の色を持ち、黒衣で身を纏っていいる。
たくさんの魔族が共存しているこの世界に置いて死神などという通り名は珍しい物でもない。

それでもやっぱり彼女には見覚えが無く、キョトンとしてしまう。

だが其処は盗賊団の拠点。
自分に見覚えが無くとも他の団員、それこそ団長への来客かもしれない。
その事を確認しようと彼女が口を開くよりも先に死神を名乗る者が第二声を発していた。

彼女は驚いた。何故ならその名は盗賊団の仲間にすら明かしておらず知っている者はごくごく限られた者しかいないからである。
それなのに、その名を呼ぶ者については見当もつかないのであるから混乱は避けられない。

この有り様である。

どこか物腰が落ち着いた口調に彼女も少しずつ冷静になっていく。

あまりに淡々と語られるので信じられない気持ちとその内容を信じたくない気持ちが入り交じる。

………

………

*+*+*+*+*+*+
盗賊団ラビッツ拠点内部。
居間と呼ばれるスペースでは団長と思しき男がソファーに寝転がっている。

ヤトさんと呼ばれたその男はゆっくりと身体を起こし彼女に向き直る。

どう説明をしたものかと彼女は悩んでいたが

あまりにあっさりとした快諾に戸惑いすら感じてしまう。

……
………

盗賊団ラビッツは今日も賑やかである。