出会いがあれば必ず別れもある。かつての仕事の中で味わってきた仕組まれた出会いも含めて、人並み以上にそれを繰り返してきた。それでも、メイリーのように偶然出会ってから長い時間を経てもともにいる者もあれば、かつての仲間たちがそうであったように再びひょんなことから再会することもある。

「よし、ソロソロイクか。」

　何かを吹っ切るようにして、アイヴォリーは勢いをつけて立ち上がった。傍らに投げ出した荷物を拾い上げ、友人に別れを告げているであろう彼の相方の元へと向かう。

「オイメイリー。ソロソロ時間だ。嬢ちゃんたちもオナゴリ惜しいだろうが、ソロソロ行かなキャ、な？」

　何やら話し込んでいる様子の三人に声をかけ、アイヴォリーは小さな妖精をそう急かした。ここでいつまでも話し込んでいる訳には行かない。

「嬢ちゃんも、短ェアイダだったが楽しかったぜ。ま、次に会うときニャ精々もうちょっと楽しませてくれるように成長してッとイイんだケドな？」

　背中を向けて肩越しに手を振りながら、アイヴォリーはエルフの少女にそう言った。何を想像したのか背後で絶句している気配がしているが、反撃の口火が切られる前にさっさとアイヴォリーは歩き出す。

「じゃシェリーちゃん、またねー！
　アイ、待ってってばー？！」

　慌てて追いついてきた彼女が並ぶまで歩調を緩め、アイヴォリーは傍らの相方に声をかける。

「さァて、こっからどうしましょうかねェ？」

「そうねえ……とりあえず新しいエンブリオを見つけに行かないと……。」

　口元に指を当てるいつもの彼女の仕草を横目で見ながら、アイヴォリーは革の手袋に包まれたままの指先で頬をかいた。精霊に関することならば彼女に任せておく方が良い。今回の地下牢は多少危ない橋を渡った感が否めなかったが、頭数を減らせばそれでもどうにかなるだろう。

「おゥ、そういえば水の残りが心もとねェな。一度あの小川に戻って補給しといた方がイイぜ。」

　荷物の中に突っ込んだ水袋の中身を思い出し、アイヴォリーはメイリーにそのことを告げた。水は生命線だ。どんなところに行くとしても水だけは確保しておかなければならない。

「それじゃ、水を汲んでからここに戻ってきましょうか？」

「あァ、オレはイイぜ。」

　その申し出はアイヴォリーにとって意外だった。彼にしてみれば、もう少し安全なところで地盤を固める方が良いと思っていたのだ。それもあっての水場への逆戻りだったのだが、彼女には何か考えがあるらしい。とはいえ、あの地下牢の雰囲気に委縮していたメイリーが自分からそれを言い出すというのはアイヴォリーには意外だった。

「でも、アイは良かったの？」

「んー？」

　彼女の言わんとすることが分からなかった訳ではない。それでも彼が言葉を濁したのは、どこかに多少の迷いがあったからかも知れなかった。確かに、四人構成が最大のこの世界では、それを維持している方が安全なことが多い。特に、アイヴォリーたちのように二人で前衛後衛に分かれている二人組とではその安全性に雲泥の差が出るということもままあるのだ。それはひとえに、前衛である彼の負担がまた増すということを意味していた。

「ま、ソモソモイカまでだ、ッつーハナシだったしな。
　第一朝から晩まであのハネッカエリの相手するのもラクじゃねェしな。」

　こういうときのアイヴォリーは決して表情を変えない。今回も彼は、いつもの笑みを浮かべたままでそう嘯いた。

「そう、ね。また二人っきりだし、頑張りましょ！」

　アイヴォリーの答えに、メイリーもそうやって答えた。そういったところは、二人の長年のやり取りが築き上げてきたものかも知れない。お互いに相手の考えていることが分かっていても、それ以上何も言わなかった。

「あァ、マタ二人っきりだ。」

　にやり、といつもよりも多少暖かな笑みを浮かべて、アイヴォリーは彼女にそれだけを返したのだった。

反論しきれないもどかしさと怒りで、耳の先まで真っ赤になっている。
しかし、次の瞬間には、アイヴォリーの妖しい動きに感情が氷点下まで下がったようだ。

少しの間、小首をかしげて考えていたが、
冷徹な表情を少し緩め、小さな声で付け足した。