彼らは全てを捨てて、ゼロから始めた。
多くの犠牲を出しながら、それでもどうにか環境に適応し、命を繋ぎ続ける。
長い時間が過ぎた。とてもとても長い時間が。
記録媒体を失ったことで自らのルーツすら忘却の彼方へと消え去り、外の世界に新たな訪問者が現れたことも知らず、ただただ生きるために生きる。
たった一つの世界以外に何を知ることもなく、誰に知られることもなく、彼らは閉じられた世界で完結する筈だった。

海路をとれば例外なく嵐に見舞われ、空を飛べば計器や感覚が狂い路を逸れる。海底を掘ろうにも岩の下まで力場が届いていないという確証もない。
私たちのような半情報生命体以外で、生きたまま毒の島にたどり着ける者は存在しないかに思えた。
だが彼らはそこにいた。短距離で使うには危険過ぎる筈の世界間航行の技術を応用したのだ。
彼らの力はそれほどまでに大きく進化していた。
同時に彼らは困窮していた。そんな無茶をしてまで毒の島を調査しなければならないほどに切羽詰まっていた。
枯渇する資源、増え続ける人口。猛烈な勢いで住める場所が消えていく。
この毒の島に初めて足を踏み入れた彼らは絶望しただろうか？
継続的に送られている調査隊を見ると、どうやら少なくとも何らかの価値は見出せたらしい。
未だ未開発の土地があるならば、それが例え毒にまみれていようと、余すところなく食い尽くそうというのだ。

外の大陸の人間たちの力を減じるべきではないか？
個体数を減らし、技術レベルを何段階か引き下げる——
そうでもしなければ、奴らはこれからも数多の世界を荒廃させ続けるだろう。

気付くと私はそう提案していた。
話しながら、どこか足を踏み外してしまったような感覚を覚えた。しかしそれは決して不快ではなかった。溜まっていたものを全て吐き出したような、ようやく楽になれたような爽快感があった。

No.6、お前の思考は破綻してしまったようだな。
我々の目的は何だ？　それについ先日交わした議論を忘れたのか？
お前が保護すべきだと主張したあの子供を、今度は殺すべきだと言っているのだぞ。

その指摘に、私は愕然とした。
確かにその通りだ。私の思考は矛盾している。
問題なのは、指摘されるまでそれに気付けなかったということだ。
私は口をつぐみ、それ以上何も話さなかった。

　久々の水辺ではしゃいでいる。