この世界に流れ着いて、どうしてか、この戦いに身を置くことになって。
ひとと関わることが増え、話をしてくれる相手が増え、優しくしてくれる相手が、できた。

だが、そうしたすべてを振り捨てて逃げ出したいという衝動は、胸の底を常に揺蕩っている。

優しくされることは、或いは我が身を心配されることも、ひどく落ち着かない。
私にはそんな優しさに能うほどの価値などないのだと、骨身に沁みるほど思い知らされ続けた日々がある。
あの日々が背中に張り付いて剥がれずにいる限り、きっと安逸に優しさを受け入れられない。

奪われる痛みを知り尽くしていたから、誰からも、何も、奪いたくなかった。
奪わずにいられるのなら、いっそ、それだけでもいいと。
たとえどれだけ奪われても、奪わずにいられさえすれば、自分のこころの、最後の砦は守れると。

それだけを思っていたはずなのに、誰かが私のこころを守ってくれようとするとき、それがとてつもなく恐ろしかった。
その優しさを、ぬくもりを、もしも失ったら。

けっして、彼ら優しいひとたちが、手のひらを返して私から何かを奪っていくとは思っていない。
もしもそうしたところで、私は彼らをゆるすだろう。

ひとときのやすらぎで何故いけないのだと、理性は告げている。
永遠なんて、ひとに望むべきものではない。
なのにこころは、受け入れて失えば、もう痛みに耐えられないと怯えている。

手にして失うくらいなら、はじめから手に入れないほうがいい。

何も持たないままなら、これ以上失わずに済む。

手放す痛みに引き裂かれるくらいなら、手の届かないものを淡く思っていたほうが。

何より私は、その優しさに報いることのできる何ものも、持ち合わせていない。
私は、優しいひとを、優しいがために削り取ってしまう。 奪ってしまう。

不吉の子。
禍つ兆し。
私は、そこに在るだけで。

優しさを分け合うこともできないほどに、恐れと諦めだけが、あまりに胸に溢れすぎている。

　久々の水辺ではしゃいでいる。