私は逃げていました。
集落一つがまるごと全滅するという異常事態を察して近隣の集落から人が来たとき、そこで生きていたのはたった一人、私だけだったのです。
大人も子供も、生まれたばかりの赤子も、犬や家畜も、みな死んでいました。
彼らの顔は破裂せんばかりに肥大化した眼球で覆われており、そんな異常な死体がそこかしこに転がっているのです。
まるで集落ごと悪魔に呪いをかけられたかのようでした。
異世界じみた瘴気が渦巻き、そこに一歩足を踏み入れればとても正気を保っていられないような、ひどい有様でした。
そんな中で一人佇む私もまた、単眼の人ならざる姿。
近隣の集落から来た人々は、私がこの災禍の元凶である悪魔だと信じて疑いませんでした。
そしてそれは残念なことに、間違ってはいなかったのです。
私は、その狂気じみた風景の中にいながら、自責の念に潰されて命を絶つことも、発狂して死ぬこともありませんでした。
なぜなら、そうなる前に私は、彼女に三つめのお願いをしていたからです。
私は私のままでいたい。どうか、どんな悲しみも、憎しみも、私を変えてしまいませんように、と。

　　　　　スッ

しきりに背後を振り返りつつ進む。