砂の大地。頭上をゆく太陽が痛い。
乾きを感じるのは、ほとんどはじめての経験だった。

村を追われて山野をさまよっていた頃にも、水だけはいつも傍にあった気がする。
歩き渡るにも迷わない程度の低い山、葉末をすり抜ける鱗片のような太陽に照らされた森。
起伏の少ない平野を大小の川が網の目のように流れ、その水面を黄昏が朱金色の鏡に変える。

目に焼き付いているのは、私には開かれることのなかった村の姿。
あの山の端、川の狭間に行儀よく収まった暮らしの場。
夕陽に輝く村、濃く落ちる影。そのあわいを駆けては戻る子らと、それを見守る大人たち。

ああ、なんてきれいなんだろう。

深い深い虚脱感。
生まれ故郷でありながら、ついに私には得られなかったもの。
かあさんが私のために失ったもの。

膝からすうっと力が抜けて、日が落ちきって闇が深くなるまで、立ち上がることさえできなかった。

それからずっと、里には近づかずにいた。近づけなかった。
鬼の身体は強い。
水があれば、飢えにはかなり長く耐えられる。そして、水はどこでも労せずに手に入った。

山や森をあてどもなく彷徨する、亡霊のような数年。どれほどそうしていたのかも覚えていない。
里に近づかないのは、罪人の焼印のせいも、もちろんあった。
けれどそれ以上に、自分の居場所がないということを嫌というほど知ってしまったのだ。

居場所。私がいることをゆるされた場所。
私にとってそれはかあさんの傍にしかなく、だからかあさんを亡くした今、追憶の彼方にしか存在しない。
それを安寧と呼ぶのだと、知ったのはいつだったか。

この世界は、故郷の世界に比べて混沌としている。片角の鬼も、雑多な種族のうちに埋もれるひとつだ。
ここでならもしかして、私も、それを得られるのかもしれない。

けれど、私は私の愚かさを知っている。

ゆるされる自分自身を、信じられないほどに。

しきりに背後を振り返りつつ進む。