「いらっしゃいませ。ここはよろずやです。何をお求めでしょうか」

このような険しい山道の途中に見慣れないテント。
入ってみたところ、まだ年若い、少女とも言える年齢の女がここはよろずやだという。
なるほど、商品と思わしき物品が点在している。
店というには品物は少ない。
それでも、武具やら日用品やら携帯食料やら治療用の煎じ薬やら、この辺りで必要そうなものは一通り陳列してある。
隅にある鎧は非売品なのだというが、この少女が持って運んでいたのだろうか。
だとしたらすごい胆力だ。

「よろずや……？　こんな山奥でか。それにずいぶんと品物が少ないように見えるが」

疑問を投げかける。この辺りは一揆衆が腕試しにきているらしい。
ならばこの少女も……。

「商品が少ないのは、私は商人ギルドに所属していませんからね力もコネもありませんから」

少しバツが悪そうに笑みを浮かべる少女。
確かにこの年でギルドにコネなどはそうそうなかろう。
だが、ここに並べられている武具はよくできている。
……最高峰、というわけではないがどれも一戦級の代物だ。
なんのコネもない一介の小娘には仕入れるようなことはできまい。

「ここにいるのは、一揆に参加している方に物を買ってもらおうかと」

「王国転覆に力を貸そう、ということか？」

もしそうならば、この少女を生かしておくわけにはいかない。

「いえいえ、協力だなんて。無償で譲るわけがないではないですか。
　私だって明日食べねばならないんですから。ちゃんと有料です。商売です。
　ですので兵士さんも出すものを出してくださるならどれでも持っていってくれて構いませんよ」

王国側の兵士である自分に対しても、ここの武具を売る、と目の前の少女は言う。
どういうつもりだろうか。

「兵士さんがどうにも一揆に参加している方々にはここの商品を譲りたくはなさそうでしたので
　それにとても怖いお顔をされていましたからね」

怖い顔……していただろうか。

「私を殺したところでここにある一部は一揆の方々の手には渡らないでしょうけど」

一瞬考えこんだ間に少女は話を続ける。

「それに意味はないわけですよ」

何故だ、との問いに少女は続ける。

「私が仕入れなかった分が他の商人さんの手に渡り、そこから一揆の方々に結局は武具は伝わりますから」

だから意味はない。そう少女は続ける。
確かにそうかもしれない。

「だから……」

少女の表情が不敵に笑みを浮かべる。
ハメられたか。剣に手をかけた瞬間……。

「兵士さんがここにある武具を買ってしまえばいいんですよ☆」

営業スマイルだった。
飾ってある剣をもってきての営業トーク。
最後には鎧まで買って、新品の武具と軽くなった財布を手にとり山道を歩いていた。


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なお、この後ユメルが白雪を説得して難を逃れました

君へ挨拶をしに来たのは、アムルイ・パセニシパという少女だ。
これまでに何度か、仲間が取引をしたことがあるらしい。
取引と言っても彼女自身は商人ではなく、ちゃんとした商談があったわけではない。
というか帳簿を信じるのなら、結構な額を貸し付けている相手だ。

微妙に疑わしいのは何故だろう。
いっそのこと、この場で取り立ててしまうべきか。
しかしそれよりも早く、彼女は本題を切り出した。

知恵を借りに来た——ということは、商売の話だろうか。
商人の知恵を求めるのなら、それが納得のいく筋だ。
そして彼女は、抱えている問題についてこう話す。

一揆の後、国をどうするか——その活動は、どこかで耳にしたことがあるかもしれない。
確かに現状、一揆を成し遂げるということは、魔王パラダイスを倒すということだ。
それは市民による王権の打倒であり、革命に他ならない。
終わった後のことを考えておく必要は、確かにあるのだろう。

魔王パラダイスを倒した後の国家としては、それは妥当な線かもしれない。
誰かが王を引き継いだとしても、市民による革命が起きたという事実は残る。
それは階級社会の崩壊であり、市民は自分達に力と自由があることを自覚する。
結局のところ、以前と同じような安定した王国は望めないのだ。
しかしアムルイの語る言葉は過去形であり、今は違うのだと言外に語っている。
その理由は、

もし反抗する者を押さえつけようとすれば、今の新王と何も変わらない。
争う者の立場が変わるだけで、この一揆から続く争いに終止符を打つことはできないのだ。

国家という概念に打ち込まれる、新しい概念。
物事の前提を引っ繰り返し、世界を拡張する。
そして根底にあるのは、民が自己決定するという、自由主義の萌芽とも言える精神だ。

もしそれが成立すれば、一時的に平和が訪れるのは想像に難くない。
立場の違いから、やがて対立し、争いに発展する可能性はあるが、可能な限り抑えられる。
少なくとも一国だけが、一方的に侵略戦争を始めようとは思わないだろう。

理想を説くだけでは、動かない人種も存在する。
その説得のための知恵を、彼女は君に求めているのだろう。

それ故に知恵を、商人としての君を彼女は求めている。
連邦という青地図が持つ市場価値を、値踏みしてくれと言っている。
そして彼女は君に手を差し出し、こう言った。