後は任せたぞ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　私達がマナを抑える。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　幸運を祈る。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぬかるなよ。
　　　　チャンスは一度だけだ。





　身の内から霊魂達の声が聞こえる。
　名も知らない彼らは、私のためそして自分たちのために全力でマナを抑えてくれている。
　命がけと言ったらおかしいかもしれないが、おそらく彼らの大半はマナの力に潰され消滅するだろう。それが成仏と呼べるのか私には分からないが……どちらにしても、失敗は許されない。

　さやえの血が喉を通った。血液から別の何かが溢れ、肉体と精神に染みこんでゆく。
　途端、割れるような頭痛と嘔吐感に襲われた。
　はじめはマナの抵抗かと思ったがどうやら違う。マガタキの力が「プルヴィス」を構成する力とは全く異質なものである為、拒絶反応が起こっているようだ。
　だからといって今更この力を手放す訳にはいかない。苦痛をねじ伏せて、なすべき事を……願いを念じなければ。

　　　「一つの身にマスターの役割とマガタキの装置を同居させるということは、自己完結する願望機を生み出すことに他ならない。
　　　　何処とも知れぬ混沌から無制限のエネルギーと原理不明のロジックを汲み出し、その身によって行使するのだ。
　　　　そこには危険と因果がつきまとう。」

　集中しなければ。
　危険なのはマナの妨害だけではない、私が意思を強く持たなければ何が起こるか分からないのだ。
　可能性を示してくれたマガタキの為にも絶対にミスは許されない。
　体の中で暴れるマガタキの力の「向こう」から、途方もなく膨大な力と情報の渦を感じた。直視は出来ない、してはいけないと本能が告げている。おそらくこれが——混沌の海。
　願う。念じる。祈りを捧げる。
　私の願いはマナの救済。マナの心を染める呪いを取り除き隔離する事。

『——————』

　理解を超えた力に包まれながら、言葉ではないが、何かが応えてくれた気がした。





　次に気がついた時、マナが自分の顔を覗きこんでいるのが見えた。

　いつか見た優しい笑顔。
　ようやく、ようやく私達は長い悪夢から目覚められたのだろう。

　違和感。そして不安。
　何かがおかしい。頭が妙に冴えているというか、心が無防備になっているような、異様な落ち着かなさを感じた。

よしよしとプルの頭を撫でる。

そっとプルの耳元に顔を寄せる。

一部消し飛んだ遠景を見つめ