■dolor/optare...

気付けば“そう”なのは己１人だけだった
　それが“普通”ではないのだと　気付くのに時間はそう必要なかった
　　突然変異か　はたまた何かの悪しき先触れか
　　　“異端児”なんて呼ばれるのは慣れっこになった

それからずっとそんなのは“自分だけ”だと思ってた
“アイツ”も“***”も　互いが互いを知るまでは——

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その部屋の主は、その居城の中央に存在する部屋の、さらに中央に据えられた特殊な場に座して滅多に動く事がない。

理由は複数あれど、その部屋と主を知る者であれば、周知の事実というものであり。
その部屋は、常に誰かを迎え入れる場所であった。


「……お呼びに応じて、御前に参じました」


殆ど音を立てずに扉を押し開けて部屋へ入り、中央に座する部屋の主に対して軽く膝を折って礼をする者。
純白に近い長衣を身にまとい、茶金の長髪を結い上げている。
その瞳は翠……だが、右瞳は色素がかなり薄い。


【そう堅苦しくなくてよろしくてよ、と言っても聞かない者揃いなのはいい加減私（わたくし）も承知ですけれど。その辺りの椅子をお使いなさい？】


その言葉は確かに部屋の中央の存在から発せられているはずなのに、それは空気を振るわせる声ではない。
が、その存在がそういう会話術を行使するのもまた、皆は承知なのだった。


淡い光を帯びていて、輪郭程度しか姿が捉えられない相手に向き合う形で、勧められた通りに１つ、ひざ掛けのついた椅子を動かして正面に座る。


「……此度のお呼び出しのご用件は？　常の古老陣との会合の場ではなく、私だけを呼び出された意図は何でしょうか？」


女性とも男性とも判別のつかないが、涼しげな落ち着いた声音が、部屋の主へと問いかけを投げかける。
その問いに、少しだけ間を置いておっとりとした声音でこう返された。


【……虹と、風に関する新しい“予知”は、ありませんか？　】


と。


「わざわざ私だけを呼び出されてそれを確認なさるという事は。何かを“視られた”のですね？」

【えぇ私（わたくし）のものは予知ではありません。あなたから伝えられて予見されていた光景が現実となっていく現在の断片。あなたの予知を知って他の古老は反対したのを、あなただけが私（わたくし）に同意してくれたからこそ、かの世界で起きている事ですわね】


——虹と、風。
一族の歴史の中でも、ここ近隣では様々な意味で問題児筆頭に挙げられる２名の異名の一文字。


【もしかしたら、それは命がけになるかもしれないけれど、きっとあの２人には必要で大切な事。そして私（わたくし）がそれを見届けてみたいだけかもしれないのですけれど】

「かの世界が、最初で最後のチャンスの場になる、と判断されたからの現状でしょう。しかし予知は必ず的中しないのは私を含め承知の上。場合によっては私達も介入せざるを得ないかもしれません……が」


小さく一呼吸を置いてから、言葉を続ける。


「とびきり問題ばかり起こす者達ですが……私とて情がないわけではありません。長く探し続けた風の問いに、虹が何らかの解を返す事が出来れば。その先は——予知では見えないものが、あるかもしれない。それを視たいというお気持ちに同意したからこそ、かの派遣に反対しなかったのです」

【そうでしたわね。……有難う、プロフェシア】

「未来は定まってはいません。１つでもありません。何が正しいか、は予知を行う私にも判り得ません。が、導く程度は出来ます。この決断と、かの存在達が生み出す何らかの変化があるのなら。私も……見てみたくなったまでです」


そしてほんの少しだけ迷った末に、こう付け加えた。


「……“揺らぎ”が、見えます。風も、虹も。恐らく……“未来”を変動させるかもしれない“誰か”か“何か”に、出逢ったのではないか、と」

【そう……ならもうあの子達は、互いが互いだけしか認められない場所から……変化出来ますわね。もう“１人ぼっち”じゃない場所へと】


そう告げた存在は、ふふふと楽しそうに笑った。
それはもう、“見得ている”とばかりに。

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始まりは偶然で　そこから先は必然だった
常にないものが　変化を呼び起こす可能性

停滞した閉じられたモノを　動かす力たれと願う者も居る
そこに伴うのが痛みであっても　きっと彼らは迷わないだろう

幾つかの分岐点の先の結末は　未だ誰にも視得ない——

ピタリ、とまるで豆鉄砲をくらった鳩のように静止したのち、右手を振り上げたまま走狗のように剣士に駆け寄った。

龍は黙って、シェリィの話を聞いていたが、“遠見”という者の話を聞いた際に

曖昧に言葉を濁した。


事の顛末なら知っている。元凶は潰えた。龍はその場にいたのだから。
そして、それは龍がこの世界に召還された意味をもはや失っていることを意味していた。
その反応は、止まることのない時の流れに対する、僅かばかりの抵抗だったのかも知れない。

不良とよばれたことに対して、不満を述べるシェリィに対して、龍は少し意外そうな顔をした。

と悪びれもなく答えた。

と、頭を巡らせると

と、余裕のある笑みが自嘲の混じったものに変わった。

最後、という言葉をわざとらしく聞き流すように、龍はその後の言葉にだけ返事を返した。

まじまじとシェリィを見つめると、龍は

と少し茶化し、

と返した。

先程撤回したばかりの不良という言を再度口にしたのは龍にとって、正体を知ったことによって対応を改められると考えられたことに少し見くびられたと感じたからだ。
だが、その言がシェリィにとってのある種の秘密の告白であることを感じ、感情を露にすることはしなかった。

龍は一瞬の間の後に、シェリィに前を通り抜け、背中を向けたまま振り返り、やや強引に手を握った。

人はそれぞれの道を歩み、生き別れるていく。幾度となくそれを通り抜けてきた龍だったが、それでも慣れが来るようにはとても思えなかった。

そっけない口調でシェリィに声をかけ、歩き始める。

だが、自然とシェリィの手を握る龍の手には力が入った。
それでも龍は立ち止まることはしなかった。
今日はそれほど酒の持ち合わせがなく前回のことを考えると心許ないくらいだった。
このところ戦い続きで、上等な肴の持ち合わせも無い。



—それでも、これから交わす酒は、きっと龍がこの世界に召還されて以来、きっと最も忘れられない酒の席になるはずだからだ———

　
　そう言って、負けず嫌いの表情が顔を出す。
　けれど、シェリィの言った喩え話には、少し難し顔をした。
　

　
　『エルを救う』。それがロウの行動原理であり、意志だったはずだ。
　しかし、投げかけられた問いには、すぐに答えられなかった。
　

　
　メルンテーゼに滞在するかどうかについては、二人とも顔を見合わせて、
　若干しょんぼりした様子で答える。
　

　
　そこまで話すと、ハンカチから顔を上げて、すう、と少し大きく息を吸った。
　

　
　差し出されたシェリィの手に、二人はほとんど同時に、手を重ねた。
　

（心の片隅にでも覚えて頂いていたら。その言葉には、気づかないかもしれないぐらい少しだけ、強めの口調で応えた）

（今まで通りの扱いで良いと言うシェリィさんの言葉に安堵し、お二人の一揆が終わった後のお話を聞いて）

（この後どうするのか、と問われる。色違いの瞳がジェイドの心を貫く。表には出さない。その程度の経験はこの旅で得たのだから。）

（そしてジェイドはシェリィさんの真の名を、その由来を知る事が許された。じっと真っ直ぐな目線を向けたまま聴き入っている事だろう）

（そして、シェリィさんに倣って愛剣に何かを誓おうとするも、やめて、剣を抱きしめる）

（鞘から長剣を抜き放つと綺麗に構えを取って）

（緩やかに仕込み杖を長剣の形に変形させて構える）

（綺麗な所作で長剣を鞘へ収める）

（穏やかに微笑つつ仕込み杖を元の杖に戻す）