これは自分のエゴかもしれない。

沢山嘘をついて、沢山救ってきたつもりだ。
敵をただ眠らせれば、味方に"殺してきた"と伝え、
死にかけの敵がいれば手当てをし、"お前は死んだことにして逃げろ"と言った。
それでも自軍を勝利に導いた。

誰も死なない。誰も殺さない。それらをコントロールしてしまえばいい。
自分が傷ついても、肌が焼け焦げても、誰かしら救いたい。
それが自分にとっての戦争だ、と言い聞かせて。

ある日、気付く。
自分の実力なら完全に"逃げる"ことができるのではないかと。
こんなところに縛られている必要はない。親に会いに行こう。
そして、木をつたい川をわたって逃げ出した。
追っ手は来なかった。だがいずれ来るかもしれない恐怖に襲われていた。

随分遠くなってしまった、のかもしれない。
地図もなければ家もわからない。右も左すらわからない。

ある森の奥、ひっそりとした地。
片腕に包帯を巻き、長髪長身の男に出会った。

汚れた自分に暖かい食べ物と、居場所を与えてくれた。

その方は今病気を患っている。
次は私の番だ。

しゃがんで、赤髪の少年の顔を覗き込むようにしながら話しかける。

むつきは　じゅもんを　となえた　！

壁は器用にぺこりと頭を下げた

人の言葉を鵜呑みにするのは彼の性分ではないし、
ましてや名も知らない木の実なぞ口にする性質でもない。

だが、なんとなくこれまでの彼らとのやり取りから、つい、木の実に口をつけた。

・・・と、そう彼の味覚が刺激された瞬間、
がばっと彼の背後から、何かが突進してきて、彼の両肩に掴まった。

掴まれた彼よりも、幾分か背の高い褐色の肌の女性が、そこには立っていた。
若干内カールの掛かったボブの黒髪に、ぴょこぴょこと動く黒い猫耳が付いている。

・・・爛々と目を輝かせ木の実を見つめる彼女とは裏腹に、
振り向いた青年は心底面倒くさそうに眉を顰めている。

未だにぬこのほっぺを伸ばし続けるリーネ。
もはや彼女の腕の広げられる限界まで両腕を広げようとしている！

キゲンがなおり安心した様子になり

小さく溜息をし

複雑な事情がありそうと勘ぐるレヒトであった

あいてを　しんちょうに　みている

無言で武器を構えた。