■Let us, then, be up and doing, With a heart for any fate...


時は深夜を少し過ぎた頃合の時間帯。
基本長時間の睡眠を必要としない体質のシェリィとレシュは、互いに交代をしながら獣避けの火の番をするのが、この旅では決まり事になっていた。

……ちょっとした事で、今は臨時の同行者が増えていようと、そこが変化する事は特にない。
むしろしっかりと彼には睡眠をとっておいて貰った方がいいだろう、色んな意味で。
自分達が寒暖差に強いのを活かす形で資金面からも圧倒的に野営が多いのだが、臨時同行者陣もそれを苦にする様子ではなかったのは幸いだった。
傭兵稼業をしていたという話やらが影響するのだろうか。


ともあれ火の番は、自己鍛錬の時間を早朝に取る習慣のあるシェリィが、後半になる深夜からの時間帯を担当している。
レシュが交代で寝床へと向かうの見送って、２人きりになった所で暫くしてからシェリィはこう切り出した。


「アークさぁ、私にホントは何か言いたい事、あるんじゃないかい？」


そう己のマスターから声をかけられて、ふわりと淡い光を帯びながら浮遊していた少年姿をした精霊の、アイスブルーの大きな瞳が瞬いた。


「……何故、そのように思うのだ？」

「例の場所に１人で行った時にさ。私の言葉にアークが珍しく何も返事しなかったろ。あれの意味、私なりにちょっとは考えてみたんだよ。それこそさ、今また１人じゃないように今回の派遣と調査自体が、いや元を正せばこの世界、メルンテーゼに来た事自体がイレギュラー尽くしなんだ」

「……」

「で、本来あまり物事深く考えない私でも、これだけ時間もありゃ考えるさ。今までと、現状の違いってヤツを。確かに私の“狩る者”って役割を考えれば、今までの上の連中の決めたやり方の方が正しいんだろうと思う。“混沌”は負の感情を食い物にするし、精神攻撃の類を得手ともする。それらを極力無効にする為に、派遣先で現地の人間達と関わったりする時間を最短にして、隙を作らないようにすれば、その世界の人間にも、私にも恐らく被害は一番小さい……最悪、アイツらは私に関わったってだけで、それらを嬲って殺して、私への精神攻撃の“材料”にしかねないから——そういう事だろ？」


そこまで静かに言葉に耳を傾けていたアークが、小さくため息を零した。
それを肯定の意だと受け取って、言葉を続ける。


「効率でいえば上の連中の決めたやり方だろうそれが一番だったろうね。実際私がアイツら相手に与えてきた被害は、恐らくうちの現存する一族の中じゃ頭１つ抜きん出て私が一番……要するに邪魔だって真っ先に狙われるなら私、って事だ。が、故郷への帰還命令を捻じ曲げても、この世界で療養するって決めた折に、アークとも散々話し合ったろ。それから襲撃が無かった事でも、アイツらは少なくとも“私を発見するのは容易ではない”……って判ってる。元々アイツらが多分“目印”にしてるものを私は然程持ってないからね。手出しするなら、あのタイミングが最良のはず。あそこの島の皆にも十二分に関わったんだから、島ごと滅ぼして、ついでに負傷してた私も倒せる絶好のチャンスだったんだからさ」


自分で口にしてその光景を想像してげんなりして小さく息を吐く。
獣避けの焚き火は、そう暖を取る役には立っていない。
寒暖差に強い体質ではさして寒さは気にならなかったが、深夜では冷えこみも厳しくなりつつある空気で、吐き出した息が白くなる。
それすらも新鮮な思いで見つめつつ、一番肝要な事を告げた。


「アークの懸念してる事も判るよ。今リマと色々あって臨時組してるのもそうだけど、あんまりここで誰かに肩入れしすぎるな……って言いたいんだろ。私だって、私の生まれやらの事情で関係ない周囲を巻き添えにするのは御免だし、そこは承知してる。長期間誰かと旅を続けるつもりもない。結果的に……許すとは言えないけど、レシュの行動でシス達と旅をし続ける形にならなかったのも、良かったんだろうと思う。元々戦闘スタイルや性格が共闘に不向きだ……ってのを避けても、私は誰かと旅をする事に慣れすぎない方がいい。今アイツらの襲撃受けても、自分１人の身だけでさえ守りきって、退けられる自信を持てる場所まで回復しきってもいないしね。滅ぼそうと思えばさらに力不足な位判ってる」


揺らめく炎を見つめていた左右色違いの瞳は、アークの方へと真っ直ぐ向けられる。


「ただ……今までの派遣の在り方が正しかったとも思えないんだ。いや、多分疑問を持つ事さえしてなかった方が正しい。それが苦だったわけじゃぁないし、文句言うつもりもない。それが私の存在意義で、役割で。結果として、同族は多く救われたし、さらにいえばそれで救われる者がもっと多い。でもさ、私は正直に言えば、今のこの世界で言葉を交わしてる連中を割りに気に入ってるんだ。暫く鍛錬付き合って欲しいし、鍛えてもみたいって思ったリマに限らず、１度限りの共闘を重ねてきた皆も含めてね。そして……だからこそ、この世界にこそ鍵があるんじゃないかと思ってる。長く探してきた“何か”……物なのか者なのかさえ判らないソレが、見つからずとも何なのか見える切欠が……手の届く場所に、あるかもしれないってさ」

「……マスター……」

「だからさ、アークが色々心配してくれんのは有難いけど、もうちょい私の好きにさせてくれないかい？　現状アイツらに見つかってる気配はないとはいえ、油断ならない相手だってのは承知してるし、だからこそ何かあった折出来るだけ全部と言わずとも何とか被害を最小にする手段位は常時考えてる。でもこんな変則派遣のチャンスは今後もそうそうないって思うからこそ……頼む」


灰色を帯びた金の頭が小さく下げられて、アークのアイスブルーの瞳は微かに驚きの色に染まる。
ここまで己のマスターが自分の願いを真っ直ぐに告げた上で、頭まで下げた事があっただろうか？
考えてみてから、アークは今度は違う意味合いで大きくため息をついた。


「剣の主にしてマイマスターよ。それは今更我に願うまでもない。一度決めた事を我の言葉程度で曲げない気性は重々承知しているしな。それに……我としても、今のマスターの変化のようなものを、決して悪くは思っていないのだ」

「……アーク？」

「ただ、先に告げておくぞ。その名の持つ意味は我も承知しているがな。マスターの探している何かが見つかる事が、終着点ではないという事を。それを見つけた上でのさらなる変化を、我は見届けたい」


己を見つめるアイスブルーの瞳に、全てを見透かされているようで。
シェリィは瞳を咄嗟に逸らしそうになった衝動を、ぐっと堪える。
ここは、逃げてはいけない。
アークは、真っ直ぐ自分の願いに向き合おうとしてくれているのだから。


「歴代仕えたマスターの中でも、我も手を焼くような変り種だが……その分、我としても興味深く思っている。歴代の“狩る者”としても異色だが、さりとて異端の一言では片付けられぬと我は思うが故に。そのような願いを口にするのもまた１つの変化。よってマスターが答えを手にした場で、以後も生きる事を放棄したりしないのが、条件だ。“探し求める者”たる、マイマスターよ。重ねていうが——そこが終わりではないと、むしろそここそが始まりなのだと、心得よ」


その言葉の重さに、心の奥の何かが冷える心地がした。
それさえ見つけてしまえば、そこで終わってもいい……そんな風に思いかねないと思っていた分までもしっかり見抜かれていたのだろうか。
自然、口元に苦笑いが浮かぶ。
小さく肩を竦めながら、結局シェリィはこう口にした。


「全く、アークにゃ敵わないな。無駄に口煩くて伊達に長生きしてるわけでもないって事か。分かった、その条件は肝に銘じておく。これからも、私に力を貸してくれ」

「……偉大なる神聖霊たる我を何だと心得る。無駄に口煩いだとか、伊達に長生きしてるわけでもないだとか、その件は少々思う所があるのだが」

「事実だろ？　大体上の連中もだけど、長生きしてる奴等は揃い揃って口煩いし」

「……今の発言も、ある意味忘れぬぞ？　古老殿にはしかと報告材料として……」


真面目な話し合いだったはずが、何時もの押し問答のような空気に戻るのには、然程時間は必要もなく。
すっかり冬の気配をまとう夜空には、煌くように銀の星々と細く三日月が輝いていた——。

（合流場所へやってきて、ひらひらと手を振る）

（挨拶をしているリマの後方から小柄な少年がてててててっと駈けてくると、契約主を突き飛ばしてシェリィたちの前に立つと、じっと期待の眼差しを向ける）

（ぱたぱたと尻尾をふりながら、じー。
…じーー。
……じーーーーーー。
だんだん尻尾がぱたぱたからぶんぶんになっていく）

（いきなりぴょーんと飛びついてぎゅうっと抱きつきながら尻尾ぶんぶん、嬉しくてたまらないと言った様子でテンションマックス）

（…のところをいきなり後ろから襟首つかんでひっ剥がされ、『ふやぁぁ〜…』という気の抜けた悲鳴と共にぺいっと後ろへ放り投げられた）

（合流初っぱなから喧々囂々、既にげっそりした様子で世話になる相手、シェリィに向き直って一応改めて挨拶と紹介をする）

（本来はナユの制御の問題だが、二人の間ではそういうことにしているらしい。話をあわせてやってくれと目配せした）

それこそ、小言が自分にもとんできそうな、嫌な予感がした。

その通りと言わんばかりに、同意を態度と鳴き声で示すスズメ。
何度も頷いているように見える。

もこもこの。緩衝できるものの例として挙げてみたらしい。

ぼくがやってるわけじゃないんだけどね、といって笑う。

　ジャックは今更気が付いたように首を傾げた。

　ジャックは桃色の舌で口元を舐めた。ひとくち果実酒を含んで次を何にしようか探している。

　何処からか本を引っ張り出すも、背表紙が半分見えた辺りでまた押し戻した。

シェリィの出したグラスに酒を注ぎつつ、完全飲み会モードへ移行する。

低命中技はTEC上げれば当たるものなのかと思案中。ティッチャギぇ…

（綺麗な所作で腰に下げた鞘から長剣を抜き放ち、片手で構えを取る）

（呟きと同時に、手にした長剣の刃の帯びた光の範囲が広くなった）

（綺麗な挙動で長剣を鞘に収め）

（綺麗な所作で腰に下げた鞘から長剣を抜き放ち、片手で構えを取る）