笑っている。何かが笑っている。

人？子供？

「『　　　』！はやくー！」

「『　　　』。全く、遅いじゃあないか。ご飯が冷めてしまうぞ？」

「『　　　』はいつも遅いねぇ。『　　』に付き合ってあげるのもいいが、時間は守れよ？」

聞こえない。
言葉の一部が聞こえない。
しかし、なんだか暖かいような。そんな気がしてならない。

『…カッハハハハ…ここがお前の…』

「…！」
奴の声が聞こえる。
忌々しい、あの悪魔の声。僕の心に忍び込んだ、あの邪悪の声だ。

『暖かい？じゃあもう少し温めてやるよ』

その声とともに、僕の視界は赤く染まった。
紅蓮を吹き上げ、燃え上がる家々。焼けただれ、這いずりながら逃げ惑う人々。
それを追いかけ、怒号と銃声を撒き散らす人間たち。
そうだ、これは。この夢は。

これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これは夢これ

がば、とリブラはシーツを跳ねあげて飛び起きる。そして、周囲を鬼気迫る表情で見渡す。
逃げ惑う人々も、焼けた木に押しつぶされた子供も、体中を穴だらけにされた人間も、そこには居ない。

起こしに来たのか、いつの間にかナノが枕元に佇んでいる。

昔話をしよう。

童話の類ではない、一人の昔話をしよう。

リブラは人間ではない。魔物でもなければ、勿論動物でも植物でもない。エンブリオでも無い。
所謂「機械生命体」というものである。
彼は、世界を管理しようとする神々「拾弐聖座（ゾディアークス）」と呼ばれる神々によって作られた。
神々の叡智を結晶させ、凝縮し、液体化した魔力を核に据えて心とする、その魔力を機械で補助する、など
ありとあらゆるオーバーテクノロジーを用いて作られた。
リブラの他にも、他の世界に派遣された11機の機械生命体が存在したが、彼はその中でも最高傑作であった。

しかし、彼の心は不良品であった。
「我々が再びこの世界に戻ってくる前に、この世界を管理せよ」という神々の命を受けながら、
あろうことか「人間を管理するなど間違っている、人々の自由意志に任せるべきだ」という、愚か極まりない考えを持ったのだ。

しかし、彼の考えが愚か極まりないものだということは、信じた人間その物が証明してくれた。

愚かなる人間どもは、神々に与えられた究極の力を、自らの私欲に用いた。
世界は毒の炎にて焼け焦げ、空を紅蓮に染める戦は数千の昼夜に渡った。

リブラが共に暮らしていた人間たちも、例外なく滅びていった。ざまあ無いものだ。
彼は絶望した。それはそうだ、自分が信じていたものに裏切られた挙句、全てを奪われたのだから。
その後、それでも儚い希望を持ちながら、死んだ世界を見て回り、一番仲の良かった人間の少女の亡骸を見た時、

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ




しかし、完全に心が壊れたわけではなかった。神々は、そのことも視野に入れていた。残酷なことに。
精神にストッパーをかけられ、彼は狂うことも出来ず、正気に戻ることも出来ず、
作り上げた偽りの正気に狂気を飲み込ませて、長い長い長い間、神々の帰りを待ち続けた。
その傍らに、少女の亡骸を侍らせて。
…カハハハ…


無論、帰ってきた神々は怒り狂った。
母であり父である神々にさえ見捨てられた彼は、あらゆる思考を巡らせた。
しかしそれでも、答えは出なかった。管理するのがいいのか、しないのがいいのか。
そんな素朴な疑問の答えを出す時間さえ貰えず、神々は彼を時空の狭間へと廃棄した。

そうして、「均衡の力」の一部を失った「壊れた天秤」は、元素の世界へと落とされる。

…まァ、そういうわけだ。見た目紳士でも、コイツは完全な狂人だぜ？
なんせ、自分の目的が何かも分かってねェのに周りを巻き込んじまうんだもんなァ…
コイツの考えに賛同したいっつーお仲間の狂人さんなら、拒否はしねェがな！カッハハハハハ！

もうそろそろだぜ…コイツの狂気を俺様が手にするのもよォ…



3日目　

ウィルトは　なべを　かきまぜる　ジェスチャーを　している

ウィルトは　しんちょうに　あいてを　みている。

餌付けなど試みつつ、尻尾ふりふり再開のご挨拶

しっぽが千切れんばかりの勢いでふりふりしてる。