はじめに、星が見えた。


目を開けると、まず木の葉の間から星が幾つか見えた。俺は今日は天気が良いんだな、と思うと同時に、ひどく残念な気持ちになった。
ここが、宿の部屋だったら、あるいは懐かしい故郷だったら、あるいは自分の村だったら。こんなに星がよく見えるのだから、酒でも持ってきてぼーっと眺めるのも悪くないのに。
空に顔を向けていられたのは一瞬だけだった。シャグラン(最近契約したやつだ)に急かされ、俺はすぐに起き上がり、体制を低くする。こんなに星がよく見える日は、こういう状況だと逆にあまりよろしくない。シャグランに誘導されながら、俺はゆっくりと音を立てないようにその場を後にした。


しばらくすると、遠くでガチャガチャと金属同士のぶつかる音が微かに聞こえた。兵士達の着ている鎧の音だ。すぐに、その音は遠ざかって聞こえなくなった。


彼らが遠ざかったためか、気がついたらシャグランの姿はもうすでに見えなくなっていた。シャグランはどうやら夜目がきくらしく、こうして夜中に休む間、世話になっている。……そもそも目があるのか謎だし、目じゃなくて気配を察するのが上手いのかもしれないけど。とにかく、こうして敵地で夜を迎える時に神経を消耗しなくて済むのはありがたい。
俺は見えないシャグランに礼を言って再び寝ることにした。
ふと、眠りに着く前、あいつらはこんな夜はどうしてるんだろうかと、最近出会ったヤツらの顔が頭に浮かんで、そして消えていった。

腕の鰭で髪を掻きあげ、振り返る。

ヴォルカンの接近に反応したのか、
頼花の胸元から小さなサラマンダーが顔を見せる。
ヴォルカンをじっと見つめた後、
プシューっという威嚇するような音を発しだした…。