イクスクオラでは主要な都市にのみ、通信局が設けられており、
都市間、あるいは他世界からの急報を受け取る役割を持っている。
メルンテーゼからイクスクオラへの救援要請も世界間通信によるものだった。


そして平時には、メッセージレターの作成も行っている。
他世界からの通信を手紙にして配達すると、
受け取る側に手数料がかかってしまうので、頻繁に利用はされていないが……。

そこは自らの故郷である火山帯から、最も近い都市であった。
一年を通して温暖で、サラマンダーやガリバーヴォルクへの信仰も厚く、
毎年、火竜などを模した山車の祭事が行われている。


……ケーナズ兄弟の長兄、そして一族の英雄である
ギュンターが命と換えて”赤の災厄”を打ち倒した活躍も、今は山車となって語り継がれている。

今、集落はどうしているだろう。
リムロッソはセルフォリーフから帰ってきているだろうか。
帰ってきていなければ、レシェフが……次期里長になるために、修行を続けているはずだ。

受話器をとり、手帳に書かれた番号を見ながらダイヤルを回していく。

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回想、サラマンダーの集落にて——

……

…………

……………………

カヴィオスの通信局に繋がった受話器から、局員の声が届く。

私は、前里長にメルンテーゼの現況と、思わしくないお身体への憂慮を口で綴った。



……今の私に、レシェフに伝えるべき言葉は見つからなかった。
私はおそらく、彼をこの世の誰よりも嫌っている。
向こうも、互いが子供の頃より私の事を疎んでいた。
そんな相手が故郷の長になって……愉快な気持ちになんて、とてもなれなかった。




でも、彼が私に間違ったことを言っていたとは……悔しいけれど、今は思っていない。
確かに私は周囲に縋ってばかりの、甘ったれた末子だった。


朧げにそう自覚はしていたが、メルンテーゼへ来てようやく、はっきりと思い知らされた。








「あの青年の強さ、そして優しさとは……
　人に合わせる、耐える、争う、そういった相対的なものにとらわれずに、
　天地の理と共にあることです——」

いつか—— 十七日のことだったろうか。
エンブリオ・シツジが羊族の青年、
バシークの戦いを見ながら、私にそう語った記憶がふと蘇る。

………。

所在なく手の中で芍薬を弄んでいる。

俯いてしまったアシェラッドに焦ってかける言葉を探し、声にならずに俯き…
アシェラッドの荷物袋の口を守っている木の実のストラップを視界に入れる。

明け方。鍬を右手に。剣を腰に提げて振り返る。
訝む貌。

胸に剣を構え、簡礼を示す。