ハルニレ、と声をかけながらふと、考える。
失った筈の、手放した筈の大事なものが、傍に居る事に、微かに笑みをこぼし。

膝をつく。受け続けた痛みに目が霞む。
まだ。まだ倒れてはいけない。ここで自分が倒れては。
手に力を込め、もう一度と立ちあがろうとした時に落ちる影。

立ちあがらぬ様肩を押さえてからクローシェの前に立つ。言葉は無く。
ただ瞳の紅は、普段とは違う色を宿したまま、すい、ハルニレと共にと敵へ向けて手を向け——

少しずつ感覚が失われて行く。還っていくのか、消えて行くのか。
きっと、還っていくのだ。そしてずっと此処に在るもの。
姿を変え形を変え、見えなくてもずっと、ずっと。
私はクオリアの魔女。分からないわけがない。

『——クローシェ』

呼ばれた気がして顔をあげれば、きっと見えるのは光。
優しい、包み込む様な、背中を押してくれるような。
あの時と同じ、暖かな。

ひとり言のように呟いて、手を向ける。ハルニレ、と声をかけ