『さってと。準備はいいかしら？』

ゴレムが陣の上で静止すると、向こう側へと転送された。

『はい、転送完了。いらっしゃい、ゴレムちゃん。
　来て早々悪いんだけど、そこに猫ちゃんがいるでしょ？猫って分かる？そうそれ。
　まずはその子から説明聞いて頂戴な。よろしくっ。』

（あ、いつもの展開だなー。）
（……ねてもいいかな……。）
かーことヒエンから、何かきこえた気がするの。
そういう説明はボクが担当していたんだけど、今はそれよりも——

『お待たせー。じゃ、近況報告でも聞こうかしら。
　かーこは……、ちゃんと装備を揃えたのね。』
「おー。」

——幻像として現れたマスターは、ゆっくりと辺りを観察してから、そう告げたの。
そんなことをしなくても、マスターは知っているの。
ただ、何かのゲームの影響で、そうしてみたかっただけだと思うの。

「説明するですの。
　回流の杖、未歩の服、麦藁の魔帽、ルビーチャーム。
　杖、服、帽子は、かーこが作ったものですの。」
『どんなものかは判るけれど、確認、いいかしら？』
「何ですの？」
『一番気になるのはその服、どうやって作ったの？』
「これはヒエンが設計図もってたから、それでー。」
「マスターが渡したものじゃないですの？」

ヒエンがいくら昔のサポート役といっても、ずっと持っているはずがないの。
しかも、当事者は別の世界にいるわけだから、尚更なの。

『渡したわね。ただ、そんなことが言いたいんじゃなくってね。
　それ、設計図通りに作ってない？』
「……かーこちゃん、今とちがう……。」
「……あっ。」
『ふつうの服として使う分には問題ないわ。
　人間のように二足歩行出来るでしょう。
　ただ、戦闘中の脚部拘束時は？』

未歩の服。
ただの服だけど、本当は帯で脚部を固定して使うの。
名が示すように歩かないための服で、【あるかず】という呪を守ることで力を引き出すの。
静と動の速度差が攻撃者を惑わせ……という説明書きがあったと思うの。
それよりも。重要なことは、歩かないようにすること、なの。

『そう。だから、近いうちに作り直すのもいいんじゃないかしら。
　別のものでもいいけれど。』
「わかったー。準備ができたらそうするー。」
「問題はお金なの。道具を揃えるにも材料を揃えるにも、お金が足りないの。」
『誰かに頼んで作ってもらうのもいいのかもしれないわよ？』
「それは……。」
『無理にとは言わないけどねー。』

できれば、かーこが作っているところを見ていたいの。だから……。

『ま、いいわ。次。エンブリオの状況は？』
「みにどらちゃん。」
『はいはい、ヒエンは気に入ったようね。』
「ヒエンも含めて？こんな感じかな？」
『あれから増えたのは馬と竜ね。次の狙いは？』
「シツジですの。」
『えっ？ヒツジ？』
「シツジなー。」
『シツジ？いたかしら？
　ま、悪くないかもね。ちゅんたのことを考えたら。
　そうね、契約したら見せて頂戴な。
　その時まで見ずに、楽しみにしておくから。』
「わかったー。」
「了解ですの。」
『ゴレムちゃんへの説明も終わったみたいだし。
　それじゃ、ね。』


昨日と同じようにしてその幻像は消えたの。
連絡も終えたことだし、準備をしておかないと。

「で、待ち合わせはどこだっけ？」
「この近くだったはずなの。
　間に合うように早めに行くの。」
「ヒエンー、行くぞー？」
「……みにどらちゃん、おねがい……。」

案山子は体を左右に揺らし。メイは頭を下げ。
ヒエンは……、ミニドラの上で遊んでいるようだ。