side:——？？？


「つまんないなぁー、おもしろいことないかなー？」

視界の隅に動くバタバタと動く足、駄々をこねるような声に気が散り、そちらへ視線を向ける。

「少しは落ち着いたらどうだい？いい年してみっともない」

金の髪に蒼い瞳、大きな猫目の人懐っこそうな年の頃、十歳ほどの少年は話し相手を見つけた事が嬉しそうに更に声を掛けてくる。

「でもさ、ここにはなーんにもないんだよ？黙ってお留守番なんてそんな精神的に不健康、ボクには耐えられないんだよ、お姉ちゃん」

「持っていた玩具で遊べばいいだろう」

「ああ、アレね。とっくに飽きて壊しちゃったからもう遊べないよ」

楽しそうに語るその態度に、別段何かを思うわけじゃない。

「モノは大切にしないと、後で痛い目にあうよ。モノには強い意志が宿る。予期せぬ形で牙をむく」

「心配性だなぁ。傷つくのが怖いならちゃんと準備すれば良いじゃないか。牙を抜く、爪を剥がす、腕を折る、足を潰す。大丈夫、遊ぶ前に壊してしまうなんてそんな勿体無い事はしないよ？」

飽きてしまったら壊してしまうけどね？

少年はくすくすと笑う。
彼の趣向に別段、何の思いも抱かない。私と彼は違う生き物だ。他者の全ては理解出来ないし、理解する必要もないものは自身にとって価値は無い。

「でも退屈だなぁ」

笑顔から一転、彼はまたつまらなさそうな顔で不満を吐く。

「不満がるのは構わないけど、それに私も同じだと勘違いはしないでくれるかな。現状に不満を覚えたりはしないし、読書が出来ればそれで良いさ」

敢えて言うなら静かにしていてくれるとありがたいね。

笑顔で言い放つと、彼も笑顔で返す。笑顔というものの模範のようなその顔に感情があふれ出す。

「じゃあゲームでもしようかな。丁度、おもしろくなりそうなものがあるし」

彼は水晶玉を取り出し、机の上に置いた。
そこには銀髪の少女が映っている。

なるほど、と理解する。これは彼の好きそうな展開だ。
だが、忠告をしておかなければならない。

「彼女に手を出すのはお勧めしないよ。触れれば何時か必ず不幸をもたらす。ある種、呪われているといっても良い」

「もちろん直接的には手を掛けたりはしないよ？触らぬ神に祟りなし。何せ、彼女は神に近い存在だからね」

誰もバチは当たりたくないものだよ。

彼は肩を竦め、おどけてみせる。
そして、彼は一冊の本を取り出す。黒表紙の手帳サイズのそれを手の中で遊ばせながら、少年はにやりと笑う。子供らしからぬ粘つくような視線を向けられ、素直に気持ち悪いと思った。
彼のゲームは簡単に予想が付いた。

「どう、お姉ちゃんも一緒に楽しまない？本なんかより、刺激的で愉快で官能的だよ？」

幼い大きな瞳に宿るのは欲に濁った光。
だが、それは子供らしい純粋な願望だともいえる。
彼は子供のように楽しむだろう。己の欲に素直に叶えるために。

それを理解しながら私は口を開く。

「勝手にするといいよ、私を巻き込まないでくれるかな。好きに遊んで、好きな展開を望むと良いさ」

そう言って私は本に目を落とす。もう顔を上げるつもりはない。

「忠告はありがたく受け取っておくよ。僕だって痛いのは嫌だもの。そのためのこれだよ」

恐らく彼は手に持った黒い書を私に向けているのだろう。
だが、私に興味は無い。

この先に幸があろうとなかろうと、今の私には心底興味はないのだ。

>あそぎとタケト

あそぎの羽織やタケトの服装をみて、へへっと笑う。

>兄妹とアーネ

睨みをきかせる、目付きの悪い少女をみやると、聖とこのみへ向かい返事をする封真。
それに一瞬怪訝な表情を浮かべた黒虎だが、すぐに悪戯を思いついた顔に変わった。

それを言ったら終しめェだろうとぼやく銀。
初めましての方がいいさ？と続ける衛智に、封真はもういいと抑えた。
改めて、聖とこのみの成りを見ると、端的に問う。

その言葉に黒虎も片耳をピンと跳ね上げ、このみを見つめた。

どこからか少年の声が聞こえてくる……。