瞼を開けると、そこにはよくわからない生き物がいた。

　僕がそう問いかけると、謎の生物は声高らかに答えた。

　——暗転。





○女神の園

　　　天井から漏れ出した光に、舞台が照らし出されると——美しい女神の彫刻が花と水に彩られ、小鳥は唄うように囀っています。

セイレーン「Lalalalalalalala——♪♫♬」

　　　セイレーン登場。鳥達とセッションを繰り広げるように、美しい高音を奏でます。

ミラルカ「ここはどこだい？　僕は、みんなのいる所に帰らなくっちゃいけないのだけど」

セイレーン「Lalalalalalalala——♪♫♬」

　　　ミラルカ、少しじれったい様子でセイレーンの肩を掴む。

ミラルカ「君だよ、君に訊いているんだ。ここはどこ？　僕は何故こんな所にいるの？」

セイレーン「あ゛ら゛じつ゛れ゛い゛、こ゛こ゛は゛め゛が゛み゛の゛そ゛の゛よ゛」

　　　セイレーン、先程とは比べ物にならない程の、妙に野太い声で答える。藤原竜也も裸足で逃げ出す野太さ。
　　　よく見ると、顎に薄っすらとヒゲが生えていることが分かります。

ミラルカ「あ、えーと、ありがとうございましたー！」

　　　ミラルカ、驚きのあまりその場から離れようとする。が、今度はセイレーンの、毛が生えた逞しい腕により肩を掴まれてしまう。

セイレーン「お゛し゛え゛て゛あ゛げ゛た゛ん゛だ゛か゛ら゛、お゛れ゛い゛を゛ち゛ょ゛う゛だ゛い゛な゛。か゛わ゛い゛い゛ボ゛ク゛♡」

　　　セイレーンは猫撫で声で迫る。


▼「犯人」ミラルカの行動！
必殺技が発動！効果増幅Lv.1!!

　　　セイレーンは死んだ。人生に幕を閉じ、終わりを迎えたのだ。


○星屑の小川

パロロコン「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

　　　パロロコン、ギターを首と思わしき部分から下げて叫ぶ。慌てて駆け寄るミラルカ。

ミラルカ「——！？　大丈夫ですか！？　どうしました！？」

パロロコン「うっせぇ邪魔だッ！！！」

　　　ミラルカはパロロコンの頭突きにより吹き飛ばされ、尻もちをつく。

ミラルカ「いてて……」

パロロコン「ハッハァーッ！　D・E・A・T・H！　今！　この瞬間！　私は悪魔になったんだ！　悪魔的ロックの邪魔をするんじゃねェ！　悪魔最高ゥゥッ！」

　　　意味が解りません。ロックを人に対する迷惑行為と同一視している時点で問題外です。

ミラルカ「は、はあ。凄いんですね」

パロロコン「そうだッ！　私は悪魔！　悪いか？　別に悪いことなんざしてねぇだろーがヨォ！！　社会への反抗を犯行するッッ！　私は正しいんだからなァ！」

　　　悪魔の癖に自分の正しさを主張するなんて、変なやつだなあとミラルカは思いました。

ミラルカ「まあ、好きにすればいいんじゃないかな」

パロロコン「お前、今私を"どうでもいいやつ"だと思ったな！　そんなんロックじゃねぇ、ファァァックッッッッ！！！」

　　　話が通じません。ミラルカは諦めました。


▼「犯人」ミラルカの行動！
必殺技が発動！効果増幅Lv.2!!

　　　ロックは死す。ミラルカの一撃により、パロロコンは焼き尽くされるように蒸発しました。


○兵舎

　　　城へと繋がる、長い長い兵舎。
　　　屋根の上では、その殺伐とした空間に似つかわしくない、可愛らしい子猫がじゃれあっています。

リリス「なあに？　疲れ切った顔をしているようだけど」

ミラルカ「いえ、大丈夫です……あ。ようやく普通の人に会えましたね」

リリス「普通？　人じゃなくて悪魔だけどね」

　　　この際悪魔でも構わない。胸を撫で下ろすミラルカ。

ミラルカ「あの。ここから出たいんですけど」

リリス「ふうん。ここもけっこう、悪いところじゃないけどねえ。何か、やり残したことでもあるの？」

ミラルカ「やり残したこと？　特に、やりたいことはないんですけど」

リリス「じゃあいいじゃない。ずぅっとここで暮らしましょうよ？」

　　　リリスは艶かしく臀部を揺らして、強請るような視線を送ります。

ミラルカ「うーん、でもなぁ。ネロさんとの契約もあるし。東さんには“生き方を見つけろ”なーんて言われちゃったし。フーキさんとかにも、“武運を祈る”ー、なんて言われたし。ここで逃げるのはあんまりナァ……」

　　　あくまで受動的なミラルカ。男の癖に、意気地なしです。それとも、男だから意気地がないのでしょうか。

リリス「ねぇ。行かないでよ。ねぇ、ここで楽しく、ずぅぅっと暮らしましょうよ、二人で。アダムとイブみたいにさ」

　　　ミラルカの腕に抱き着くリリス。ミラルカはただそれを「美味しそうだなあ」と思いながら眺めていました。

ミラルカ「ごめんね。一緒にはいられないよ。僕はきっと、君をたべちゃうだろうから」

　　　それを聞いたリリスの頬が、苹果のようにかぁぁっと赤くなります。

リリス「わ、わたし、アナタになら、食べられても……」

ミラルカ「えー。多分痛いよ？」

リリス「私、初めてじゃないし。大丈夫よ」

ミラルカ「……？？？　以前にも、肉体を噛み千切られたことがあるの？」

リリス「えっ」

ミラルカ「えっ？」

　　　どうやらミラルカの感情は、純然たる食欲だったようです。
　　　あまりにもあんまりなその言葉に、リリスはとうとう泣き出してしまいました。

リリス「もう。もう。どうして私の前からいなくなっちゃうの？」

ミラルカ「え、えぇっと……。そう言われても……？」

リリス「仕方ないわね」

ミラルカ「う、うん。仕方ないことだよね」

リリス「そう仕方ないのよだって私とアナタは愛しあう定めなんだものだってそうでしょ禁断の恋って燃えるしそれにきっとサタンだってそれを望んでるしもうカミサマのことなんて全部忘れて二人で耽溺すればきっと幸せよそうに違いないわねえそうだと言ってよノエル私アナタのことをとってもっとても人類で一番愛してるのううん人類じゃなくってもいいわもしアナタが私の前から消えるというなら自殺しちゃうかもしれないしもう死にたい死にたい死のう」

リリス「一緒に死んで。」

　　　なんということでしょう。マトモだと思われていたリリスは地雷でした。
　　　ミラルカの首を絞めようと腕を伸ばしてきます。


▼「犯人」ミラルカの行動！
必殺技が発動！効果増幅Lv.3!!

　　　ＳＰ破壊攻撃により、リリスの全身はミイラのように干からびてしまいました。
　　　ミラルカはあろうことか、自分を愛すると言ったリリスを殺し、自分だけが生き延びてしまいました。人間失格どころか、吸血鬼としても失格です。



○枯れた土地

　　　不自然なまでに枯れ果てた砂漠。
　　　まるで何らかの実験でも行ったかのようなその場所は、城壁の内側に存在しています。

ノール「あ、どうも。お疲れ様っす」

ミラルカ「え、ええっと、君は……？」

　　　突然の新キャラに戸惑うミラルカ。それも当然のことです、毛むくじゃらの獣人——ノールは、今日新たに契約したばかりのエンブリオなのですから。
　　　特に記憶も得てはいないのです。

ノール「まあ、細かいことは良いじゃないっすか。これからよろしくっす」

　　　ノールはどうやら、体育会系らしい。

ミラルカ「君は悪魔か、もしくは被造物だったりするの？」

ノール「うん？　何スかそれ。美味いんすか？」

ミラルカ「まあ不味くはないけど……。じゃあ、ダンテック・ノエルって人知ってる？　こんな帽子を被ってるんだけど。あともう一つ、何か不幸だったり、悲惨な過去とかってある？」

　　　ミラルカは自身の帽子を指さします。

ノール「良く知らないっすねぇ。不幸な過去……あぁ、最近仲間のキラーウルフ達が妙によそよそしくって、もしかして嫌われてるのかなぁ、みたいな風に悩んではいますけど」

　　　普通です。なんとこのノールは、これまで作られてきたセオリーの一切を無視して来ました。解約待った無しです。

ミラルカ「何でこんなのの血を吸っちゃったんだろう……」

ノール「オレに聞かれましても？」

ミラルカ「まぁいいや。とりあえず——」


▼「犯人」ミラルカの行動！
必殺技が発動！効果増幅Lv.4!!

　　　なんとなく、流れ的に攻撃を加えたミラルカ。ノールが潰え、その視界が暗転しました。

ノール「…………ん」

ミラルカ「……あれ？」

　　　物言わぬ肉塊へと変貌したはずのノール。しかし不思議なことに、そこには未だ、毛むくじゃらのケモノが——

　　　——いなかった。ノールと名前が付いてはいるが、先程とは似ても似つかぬ流麗な美少女がそこにはいました。

　こまっしゃくれた様子の少女。一人称まで変わっているのですが、本当にこれがあのノールなのでしょうか？

　無駄ではありません。ここまでの話は全て伏線なのです。しかし、もう文字数が少なくなってきたのは事実でしょう。

　神妙な面持ちで尋ねるミラルカ。ノールはそれに対し「内容によるわ」と答えました。

　人狼という言葉は、何だかとても聞き馴染みがあるように思えました。この、狼を吊り上げたい気持ちは何なのでしょうか？

　思わず仔羊になってしまうミラルカ。
　そうです、家畜がその身を上位者に捧げるのは、当然のことなのです。

　その身をゆっくりと差し出す。ノールはミラルカに牙を立てて、肉を食い破ったのです——。

　
　　　†

　支離滅裂。僕はこの夢を、そんな風に評価した。
「夢ってまあ、そういうものなんだけどさ……」
　しかし、よりにもよって。
　新年明けての初夢で、こんなトンチンカンな物を見なくたって良いのになあ。

少年の誤魔化しが効いているのか効いていないのか。
それとも少年の過去に興味を持ったのか。
少女は興味深げに視線を少年に投げる。
が、それもすぐに目を細め笑みを浮かべて続ける。

不幸そのものに対する恐怖や焦燥感を感じさせない柔らかな物腰で少女は対抗策はないものか、と思案する。

それでは鼠が増えるかの如く不幸の連鎖が起こります。
くすくすと笑い、困りましたね。と言う少女はそれまでの雰囲気よりも幼く見えた。

男が空中をくい、と一引きすると、男の手の中に数えきれない程の糸が現れる。
毛糸のように丸い糸や髪の毛のように細い糸、ピアノ線のように鋭い糸。
それらはみな一様に何処か遠くを目指し走っていた。
そしてその中の一本ーー紅く暗く、細い糸がミラルカの足の下に吸い込まれるように延びている。

そうして様子を確認しながら、また呟くことを続ける。

何か思い当たった様子のあなたに疑問を覚えたようだが、
それよりも先にあなたの言葉に対して返答を返すべきだと判断したらしい。

そういい終え、物語の続きを促そうとしたところで——手を止めた。
少し顔を俯かせ、またあなたをじっと見つめ返す。今度は真顔で。