テーブルの上に広げられた 城の見取り図を前に、先生とにらみ合う。


王城前の本陣にある、簡易宿泊施設の一室。
一揆参加者の為に用意されてあるそれは、質素な造りながらも、居心地はさほど悪くない。


私と先生は、進攻が一区切りつくたびに、物資の補給と情報収集、
そして休息を兼ねて、王城前の一揆隊 本陣に戻ってきている。

そこで、ルリアンナさんに攻略の進捗を報告する傍ら、
他の小隊の進攻状況…どのエリアの開放が進んでいるか、あるいは遅れているかを尋ねたり、
また、新しく発見された王城の施設があれば、その警備の様子などの話を聞いたりしているのだ。

この宿に向かう途中、ラルフさんが変わらず新参者への腕試しをしているのも見かけた。
いまだ メルンテーゼのあちらこちらから参加者が集っているようだ。

一揆の勢いは、今なお 衰えてはいない。



先日、道を外れて大草原に迷い込んでしまった私と先生は、一旦 本陣に引き上げることにしたのだ。
最新の戦況を確認し、体勢をしっかり整えてから、改めて城内へと進軍した方が良いだろうとの判断だ。

そして、次の進攻先として、再び大廊下を提案してみたのだけれど…　先生の返事は つれない。

先生が、大廊下への進攻を頑なに拒むのには 理由があった。

大廊下の奥には、精強な門番が待ち構えているとの噂があるのだ。
それを打ち倒して先に進めたのは、一揆参加者のうちでも ごくわずかな精鋭の小隊だけだという。

要衝であるはずの大廊下の制圧が 遅々として進んでいないのは、それが原因だったのだ。


ゆえに、そんな話を聞いてしまった以上、進攻に尻込みするのも無理はない。けれど……　それでも。

食い下がろうとする私の機先を制して、憤懣やるかたない口調で先生が反駁する。
確かに…　戦いは先生に任せきりなのだ。そういわれてしまうと 返す言葉はない。

そう言って先生が指し示した地図の位置は、兵舎を少し進んだ場所。
大きな蔓に巻かれた、高い塔のあるところだった。

顎に手の甲を当て、呟く。


先生の提案は、一理あるかもしれない。

手当たり次第に攻城を進めるでなく、重要な施設をしっかりと見極め、攻略すべき対象を吟味した方が良い…と。
その為に、城の内郭を一望できるであろう塔の攻略を目指す…という先生の意見は、理に適っている。　

だとしても…　私にはやはり、城の真ん中を通っている 大廊下を進んで行った方が
より早く王に近づけるのではないか？という思いが拭えない。

先生には、焦っているだけだ と、たしなめられるかもしれないけれど…

思案していると、突然、先生の声。

先生は、壁に掛けてある時計を見るなり 慌てて椅子から飛び降りると、
クローゼットから外套を取り出して、それを手早く身に纏いながら玄関へ向かう。

片手でドアを開きながら、顔をこちらに向けて ぱたぱたと もう片方の手を振る。

まだ話が終わってないじゃない？！ と、立ち上がって呼び止めるも、
先生は 出撃準備よろしくね〜☆ と、こちらの制止を振り切って 出て行ってしまった。

バタン と締まるドアの音が部屋に響く。諦め混じりの息をつき 椅子に腰を下ろした。



本陣では、必要な補給などを終えたあと、それぞれが好きなことをできるように 自由時間を設けている。

買い物に出かけたり、読書をしたり、仮眠を取ったり。日によって、気分によって、やることは さまざまだ。
わずかな間ではあるけれど、ちょっとした息抜き。気分転換にはなる。


最近、先生はそのたびに、どこかに出かけているようなのだ。


出立の時刻までにはきちんと戻ってくるので、進攻に支障はないものの…　いったいどこに行っているのだろう？
さっき、『 待ち合わせ 』 と言っていたから、誰かと会っているのだろうか？


気にはなったが、とりあえず今は 進軍の準備に取り掛かることにした。

ドアが開いた折に入って来た外の空気は ひんやりと冷たく、
ストーブの熱で火照った身体には いくぶんか心地のよいものだった。

どうやら自分の記憶を信用できていないようだ

うれしそうになんどもうなずきました。

きりっときめポーズのれんしゅうをはじめました。

うんうんとうなずいています。
おねえさんがすきなものをつくってくれるときいて、めがきらりとかがやきました。

なんだかうろたえているようです。

すこしばかりにがにがしいかおでこたえました。