※続きものですので、先にブラック(ENo.1596)の日記を読むことをお勧めします。
http://ikki.x0.com/r/k/k1596.html#DIARY
(両人プロフ絵を見てからの方が分かりやすいかもしれません)




数刻後。
ジャックはカジノ会場を離れ、一人だだっ広い屋敷の中を苛立った面持ちで歩き回っていた。
あの後ジャックは順調に勝ち続け、勝利の余韻に浸り始めたところで────ブラックの存在を思い出した。
内部を探ってくると言ったまま戻ってこない相棒。
迎えに来いと言っていたが……この広い屋敷のどこにいるのかも分からず、皆目見当もつかない。
仕方なしにある部屋すべて片っ端から開けて行く、という非効率的な手段を取らざるを得なくなり…現在に至る。

「ったく、どこに行きやがったあの野郎…！黒スーツの奴らも居やしねぇしよぉ！」

ドスドスと足音が響く。
自分の存在を知らせるような音ではあったが、ジャックはむしろそれでも構わないとばかりに
足早に次々と部屋の扉を開け放っていく。それはそれは豪快な音を立てて。



「おいお前！ここから先は立ち入り禁止だ！何をしている！」



しばらくそんな事を続けていると、探していた黒スーツの男が目の前に現れた。
どうやらブラックを連れて行った男とは違うようだが、連中の仲間であることは明白だ。
そしてここからは立ち入り禁止だとジャックを牽制してきた。
──ジャックの姿をきちんと視界に収めた途端に、表情が幾分歪んだような気もしたが
当のジャックは気にせずに、獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべて男を見下ろした。

「探してたぜぇ…見つけちまえばこっちのモンだ」
「な、何を言っている貴様……！というかお前男だろう気色悪い…！」
「うっせぇんだよ、黙ってろボケが」

言うが早いか男の懐に潜り込み、腹に拳をめり込ませて黙らせる。
思った以上に呆気なく男が崩れ落ちるのを見下ろしながら、ジャックは履いていたハイヒールを脱ぎ捨てる。

「けっ。こんなん履いてたら踏ん張れやしねぇぜ。
歩きにくいし、いてぇし。男が履くもんじゃねぇな」

幸い足元は柔らかな絨毯。素足でいても問題ないとジャックは判断した。
そう毒づいている間にも先ほどの騒ぎを耳にしたのか、黒スーツの男たちがざわめきながら姿を現し始める。
そうしてジャックの姿を視認するや否や、男たちは大挙として押し寄せてきた。



「ハッ！そうこなくっちゃなあ！ショータイムの幕開けだ！！」



縦ロールの髪を振り乱し、ジャックは駆け出す。
懐に忍ばせていた愛用の武器──シューターを指に嵌め込み、獣じみた笑みと動きで男たちを薙ぎ倒していく。
一人、また一人──宙に浮き、絨毯に沈み、階段の手すりにその身を横たえていく。
黒スーツの男たちも、動きを見れば素人ではないのは確かだった。訓練を受けたプロの動きだ。
だがそれをも次々と殴り飛ばし、踏み倒していくジャックの姿に、男たちは次第に恐怖を覚えていった。



凶悪な武器を嵌めた拳。その体躯に不似合いにも程がある真っ赤なドレス。真っ赤なルージュ。
極めつけは金髪の縦ロール。
頭上で揺れるリボンはさながら返り血を浴びた血染めの布のようにも思えてくる。



「なまはげ…なまはげだ……」

逃げ腰な男たちとは対照的に、ジャックは実に楽しげな笑みを浮かべて拳を振るい続ける。
瞳はさながら獲物を嬲りながら狩る獣そのもの。獰猛な光を隠そうともせず、男たちを見下ろす。

「ひ、ひぃ…！バケモノ……！！」
「あぁん？何か言ったかよ、クソ野郎！」
「ギャッ──！！」

最後の一人を殴り飛ばし、ジャックは血で染まっていた拳を振るって血を飛ばす。
男どもを殴り飛ばしながらも、空いていない部屋の扉を蹴破ってはいたが、そこにも相棒の姿はない。

「…と、なるとこの奥か……ったく、手間ァかけさせやがって」

唇を尖らし、不満を漏らしながらズシズシと歩を進める。
そうして適当に目星をつけた扉を蹴破ってみると




────暗がりの中に一人の男と、その男に組み敷かれている相棒の姿。




「な、なんだ貴様は！誰の許しを得てここにいる！！」
「……あぁ？」

男はドレスのスリットから太股に手を這わせ、首元を緩めながら荒い息をしている。
ブラックはジャックの顔を見るなり、バツが悪そうに苦笑いを浮かべた。
それを見たジャックは呆れながら盛大に舌打ちをし、男を睨みつけながら部屋へと足を踏み入れる。

「ヒ…ッ！？」

男はそこに至ってようやくジャックの姿を鮮明に視認したその瞬間。
脂ぎった、そして程度を越して肥えたその身体を思い切り竦ませ、情けない悲鳴を漏らす。
ブラックはその一瞬の隙を突き、男の手を振り払い、尖ったハイヒールで思い切り男の股間を蹴り上げた。

「────ッ！！──ッ！？」

激痛が身体を突き抜け、男は悶絶してのたうち回る。
ブラックは素早く男の下から抜け出し、立ち上がるや否や、テーブルの上に散乱していた書類を引っ掴み──

「ジャック、ずらかるぞ！！」

仁王立ちしていたジャックの手を取って駆け出すように促す。
ジャックは何か文句を言いたそうに口を開けたが、すぐに頷いてブラックと共に廊下へと飛び出した。
背後から怒号が響いてきたが、二人は無視して駆ける足を止めはしなかった。



◆　◆　◆　◆　◆　◆



「なにヘマしてんだよお前」

廊下を駆けながらジャックは呆れたような顔でブラックを見下ろす。
ブラックはそれに肩を竦めながら、少しばかりホッとしたような表情を浮かべる。

「アイツが席を離れた隙に色々漁ってたらバレちゃってさ。
なかったことにしてやるから云々って言ってきて……助かったよ」
「カッコつけといてバッカじゃねーの。つーか、何大人しく押し倒されてんだよ。バッカじゃねーの。
なかったことにしようとか思ったのかよ。バッカじゃねーの」

むすっと唇を突き出したまま、ジャックは何度も「バッカじゃねーの」と繰り返す。
そんなジャックを「まぁまぁ」と宥めながら、ブラックは男の部屋から強奪してきた紙の束をひらつかせた。

「そう怒んなって。その甲斐あっていいもん見つけたんだからさ」
「なんだよそれ」
「接待相手のリスト。つまりだ。
──《ネクター》を巡る陰謀に関わってる貴族連中の名前が全員載ってるってことだ」
「！　へぇ、やるじゃねぇか」



二人してしてやったり、と笑みを浮かべて駆けていく中、
突然銃声が響いた。



驚いて振り返ると、そこにはまた黒スーツの男たちがブラックとジャックを追って駆けてきている。
中には先ほどジャックが殴り飛ばしたと思われる連中もいたが、
何より違うのは、全員の手には銃が握られているということだった。

「おいおいおい、マジかよ。あっぶねぇな！」
「くそ…少し厳しくなってきたな」

背後からの銃撃をなんとか交わしつつ逃げるものの、やはり多勢に無勢。
飛び道具を使われてはいつ捕捉されてもおかしくはない状況に一変してしまった。
尚且つ二人は着慣れないドレス。足が思うように動かずにジャックの苛立ちは頂点に達した。




「ッああああああああ！！！！めんどくせええええええ！！！」




咆哮し、走りながら長い裾のドレスをビリビリと破いていく。
みるみるうちに裾は破け、逞しい太股が姿を現す。
深くスリットが入った状態のドレスの余りを器用に腰に結びつけ、
隣で走っているブラックをひょいっと俵担ぎに抱え上げる。

「いけ！迎え撃て！！」
「了解！」

ブラックは抱えられたまま、忍ばせておいた武器を魔刃──ヴァンテアンで迫る敵を攻撃する。
薄刃がついたようなカードは風を切りながら正確に黒スーツの男たちに命中していく。
状況は変わらず不利ではあるものの、思ってもみなかった反撃に男たちは動揺を隠せず、
少しづつ連携も覚束無い状態へと陥っていった。

「ヘッ！口ほどにもねぇな！あとどれぐらいだブラック！」
「あと３〜４人ってとこだな。このまま突っ走れ！」
「任せとけっての！」

ブラックの言葉にジャックは笑って応え、足を踏み込む力を増して一気に加速する。
その風を背から受けながら、ブラックも笑みを浮かべながら敵への威嚇を怠らない。
駆ける先には大きな窓。恐らくそこを突き破ってさえしまえば、追跡も困難になるだろう。
そうしてまたジャックがグッと足に力を込めた瞬間






一発の銃声とともに、弾丸がジャックの身体を貫いた。





「ジャック！！」
「かすり傷だ！どうってことねぇ！」

撃たれた衝撃で揺らめいたジャックだが、すぐに立て直して床を蹴り上げる。
ブラックはジャックを撃った男を睨みつけ、狙いを定めて武器を振り抜き、命中させた。
かすり傷だとジャックは言ったが、ブラックが視線の端で捉えた撃たれた腕は
だらりと力なく揺れ、指先へ向かって鮮血が滴り落ちているように見えた。

「ジャック、お前…！」
「おい、ブラック、捕まってろよ！口も閉じとけ、舌噛むぞ！！」

何を、とブラックが思った瞬間には、
ジャックは歯を食いしばりながらも撃たれた腕をあげてブラックの足を押さえ



────二階の窓を突き破って空中へと飛び出した。



着地するや、ジャックは担いでいたブラックを降ろし、アイコンタクトを取ると全力で駆け出す。
背後の喧騒から一刻もはやく離れるようにと、ただ前を向いて走る足は止めない。


そしてそのまま、二人は夜の闇の中へと姿を消した。

プレートを見ながらヴェーヴェー唸っているジャックに残念そうな顔をしたのも束の間
ブラックの声もあってか名前を理解した様子に元気よく返事をする。

しかし名前が言いづらい等と言われて耳を再び下げる。

そして

略された名前の短さに驚きを隠せない様子を見せ

少し不満げに尻尾でジャックの足元をぺしりと叩いた。

小馬鹿にされた態度に煽られて熱っぽく言うも、おそらく相手の思うツボだろう
それでもアールは声を抑えようとはしない

何の為に自信がいるのだろうとチセは思い、混乱しているようだ。
耳元で低く囁かれれば、何だか気恥ずかしくなりそわりと身体を震わせた。

断ることも忍びなく、チセは赤く染まった頬を見られないよう押さえながら言った。

——しばらくの後、卓の上には様々な酒の肴がずらりと並んだ。
そしてグラスにはよく冷えた発泡酒が注がれる。
黄金色の液体に弾ける泡は、なんとも食欲をそそるものだ。

相変わらずにこにこと機嫌良く微笑みながら、
ブラックは頬杖をついてその目に悪戯っぽい光を宿らせた。

コツコツ、と机の端を催促するように指で叩く。
薄い唇が挑戦的に弧を描いた。

チセは不満そうだ。

敵に遭遇して臨戦態勢を取るアールとチセの前に、突然二人の女（？）が現れた。

そう言ってブランジェリーンと名乗る女は、モンスターに向かって魔力の宿る薄刃を構えた。
——どことなく見覚えのある武器のような気もするが、きっと気のせいだろう…。

　

/n0/笑顔を浮かべてはいるが、どこか寂しそうにチセは言った。

少女はソワソワしている。