鏡を見ると光を失った瞳がことさら異様に思え、衝動的に抉りだそうとする両手を、魔術による拘束が阻止する。
　与えられた罰としての余生。彼らは嫌がらせとしてしか考えていなかったのかもしれないが、僕とって見れば、それは心をゆっくりとすりつぶされていくだけの時間だった。
　かつての友や仲間を売り、時には彼らを手にかける。不自由な肉体にもかかわらず、最低限の制限を除けば自由に動けることが逆に吐き気を催す。
　死すら許されず、道具として、日々は過ぎていくのだろうと、捕縛されてから二ヶ月程度で撲は諦観に達していた。
　暗い部屋にいる、あてがわれた部屋は狭く、窮屈に身体を横たえ、ほとんど死んだように眠り続ける。
　食事は拒否できない、栄養を失えば人は死ぬのだということぐらいは彼らも理解しているようだった。無理やり鍛錬を行わされないことは幸いだった、おそらくそういうことが強さに繋がるという概念が無いのだろう。短い期間に多少なりとも筋力が落ちたような気がする。
　自ら選んで戦いの中に身をおいていたときには、随分気にしたようなことがどうでもよかった。いろんなことがどうでも良くて、気になっていたのはいつになれば、彼らが飽きるなりなんなりして、僕の命を潰えさせるかだ。
　罪をあがなうことも出来ず、罪を重ねるだけの生命に存在する理由は見当たらなかった。
　だからというわけじゃないけれど、城の中にいるときの僕は死んだように、一つの部屋へ閉じこもり、何らかの命令が下されるまで、ただそこにたたずんでいた。
　闇が大部分を支配する冷たい部屋。湿った壁と黴の臭いが僕の臭いだった。
　とはいえ四六時中まっくらというわけではない、光が差し込む時間帯も存在するし、当然ながら廊下へと繋がる扉もついていて、そこから廊下での出来事が漏れ聞こえてくることもあった。
　その日も最初に気づいたのは外の音だった。
　最初、かすかな音は聞き違いなのかと感じていた、だけれど耳をすませると独特の意思を持った音が幻ではないのがわかる。慣れていないものでは聞き漏らす音、その音が聞こえること事態が何かおかしかった。
　慎重に消された足音は城の中にそぐわないものだ、少なくとも魔術師連中はそういう遠慮をしない、もしくはするように歩くため、別の耳障りな音を立てる。
　では。と考えたとき、わずかな音と共に扉が細い光を取り込んだ。
ひと一人が何とか通れるだけのすきまを開け、滑り込んできた人物と僕は一度だけあったことがあって、その時のことを何故かよく覚えていた。
それは相手も同じだったようで、いやもしかしたら部屋に人がいたことに驚いたのかもしれないけれど、その表情からは驚きが読み取れた。
ふと、血の臭いが鼻をついた、空気に乗るほど血の臭いということは、大怪我をしているか、鮮血の臭いが染み付いているかだろう。
彼女の全身をさり気なく見ても。怪我をしている様子は無かったのでどうやら後者らしい、そこでようやく二本の剣を提げていることに気づいた。魔術師でもなく、おそらく撲の所為でここにいるであろう彼女が武器を所持していることから思い浮かぶ結論はただ一つだった。


「……久しぶり、でいいかな、私のこと覚えてる？」
「はい、あの時は会話すらしませんでしたが」
「君は私を縛り上げようとしているだけだったねそういえば」
　そういって、薄く笑う。剣術道場を営み、農業を教え、元革命軍だった女性、クリス・ガーディニアはどこか達観したような表情をしていた。
「で……君がここにいて、しかも私を見ても何もしないということは、どういうことなのかな？」
「数ヶ月前の決戦の際に捕縛され、今では彼らの操り人形です、とはいえ命令が下っていない今ならこのようにお話しすることぐらいは出来ますが」
　頷く彼女、大変だったね。と気にかけてくれるが、その言葉を貰う資格は無いと思った。
「その……貴女がこちらに呼び出されたのは、僕が奴らへ情報を渡してしまったからなのです」
「……そう」
「それだけ、ですか？」
「まぁ、不本意だったんじゃないかなって」
「いえ、僕は……自分から渡しました」
「本当に？」
「正確に言えば、ユリウスの遺言のようなものですが、それを履行する必要も無かったですし、僕自身の選択だといってもおかしくは無いはずです」
　その言葉をきくと、彼女は見るからに悲しそうに目を伏せ、少ししてから言葉を発した。
「いや……それは君の所為じゃないかもしれない」
「どういうことですか？」
　言いにくいことなのか、二度三度口の中で言葉を転がした様子の後で
「彼の声は人を惑わす力があったからね、それに囚われていたのかもしれない」
「……なんですって？」
　
　

地面に少しずつ体重を預けてゆく。
傍目には、立っているように見えるかもしれないが、その足は小刻みに震え。

なんだかすごい自信なさそうに呟いた。

めっちゃモジモジしながらボディを壁っぽく変形させた影から上目遣いで様子を窺いつつ赤くなった。

ガバッと土下座してみた。

＞前々回分！

ぽーーっとした顔で見つめるだけで言葉は返せず……

目尻に涙を浮かべず、満面の笑みでこちょこちょ続行

こっちもこちょこちょ加速！

しばらくして目を覚まし……

スミレさんと自分の状況を見て、赤面して固まり！

剣を抜く、二度三度と素振りをして、目を瞑ると彼女の周囲に光が集まり、衣装を変化させていく

数度、電気が流れたような音がして、ふよふよと鞘に収まったままの剣が彼女の周囲を囲むように浮いた