(※引き続き番外編という名の本編。
　 結局続きました。
今回は前回の続き、
　 ホラァ回になったらいいなぁ。)

——其処には小さな社があった。
開発に手が加えられなかったのは、
その社には悪いものが封印されていると信じられていたからだ。
実際に、
開発の際に手を加えようとした人間が、
突然怪我をしたり、
病にかかったりで、
結局その開発は無くなり、
手をくわえずに現在まで残されている。
それでもその社を避けて周囲は開発されてきたのだが、
なぜか、
その社の周囲だけ灯はともらず、
灯が届かない。
何故なのか、
どうしてなのかは分からない。
ただ、
そこには良くないものが封印されている。
——だからこそ、
魅月がそこに関わることはなかった。
封印されている以上、
下手に刺激して、
何かがあっては困る。
どれだけの被害が他に広がるか分かったものではない、
という所からである。
その為、
今回そこで事件が多発しているという事は、
魅月を派遣するには丁度いいタイミングではあった。
多少、時期尚早ではあるかもしれない為、
咲良へ情報を少し流しただけだ。
動かなければそれはそれでいいし、
動いたのであれば、
彼女の評価は同僚や上司にとって上方修正されるだろう。
何故なら——
「彼女と友好関係を築き、
　それでいて彼女の力を利用する。
　……君にしか出来ないな。
　仕事だからではなく、
　義務ではなく、
　単純に友として、
　彼女を関わらせるなんて。
　ああ、そして彼女はきっと当然だと思うだろう。
　まったくもって私にも、
　他の誰にも出来ない事だ。
　見事だよ。
　君が此方にきてくれてよかった。
　さて……後は報告を楽しみに待つだけだね。」
彼女に価値、出来る事は、
そう呟いた男以外には半信半疑の面がある。
他の誰にも真似できず、
他の誰よりも有力であるというのに。
突出した能力がないようにみえるが、
彼女の友である。
それだけで全てを凌駕して余りある能力ではないか。
男と咲良を取り巻く職場においては。

——月夜の明かりが四人を照らす。
夜まで一緒に遊んだ帰り道、
私達は今日最後の遊びの為に、
咲良さんのもってきた怪談の調査という名目の、
一種の肝試しに来ていた。
私達が今いる場所は月明かりに照らされて明るいが……
「異様に暗いというか、
　この暗さは明らかに異常ね。」
「あそこだけ、まったく明かりがないとはいわないけど、
　暗いのが分かるし、
　妙な感じがする、って……
　どうしたの？」
咲良さんがそういって真白さんを見る。
私もつられてみると、
なんというか小刻みに震えて、
顔色が元々真っ白だけど、
一際白くなっているように感じられた。
「おいおい大丈夫か？
　やばいならさっさと——」
「……いえ、
　大丈夫、です……」
睦美さんへと答える声も力が無い。
大丈夫、といってるのだから、
無理に聞かずに……とも思ったが……
「……割とやばいのがいるのね？」
「うっ……は、はい。
　でも、まだ封印らしきものが残ってますから、
　大丈夫だと……」
「多分、私が近づいたら封印解けるわよ？」
「……さ、流石にちょっとやばいのではないかな、と……
　思います。
　そういうことならこちらで私が皆さんと護っているので、
　魅月さんにお願いしたいでしょうか……
　もし何かあっても護って逃げるくらいならなんとか。
　流石に倒したり封印したりは難しいですね。」
「そこまで、だったら、ここで私達は待機だね。
　応援くらいしかできないけど、
　その、頑張って……！
　無理しないでね……！」
「一緒出来ないのは残念だけど、
　また機会があるだろうしね。
　頑張れ、でも無理はするなよ？」
やはりここははっきりさせないと、
そう思って聞いて正解だったと思う。
なるほど、思ったよりも相手は強いらしい。
私でどうにかなるかは分からないが、
逃げようと真白さんが提案してこないあたり、
私の方が怖さでは上だろう。
つまりは、
私ならどうにかできるレベルであるのは想像に難くない。
それにしても……
「封印、ね。
　一体ここには何が封印されているというのかしら？
　咲良さんは少し調べたのよね？
　もし……
　他に何か分かってる事があったら、
　教えてくれないかしら？」
「えっと……
　確か、その辺りには古い社があって、
　あ、社といっても本格的なのではなく、
　小さな社ね。
　で、なんだったかな。
　名前は確かなかったように思う。
　社の中にあるものも誰も知らない。
　正直いって何も分からないんだけど……
　でも、この辺りに伝わる昔話もついでだから調べてみたんだ。」
「へぇ、昔話……
　って、それ関係あるのかい？」
「関係ある可能性は高いと思いますよ。
　昔話の内容によりけりですけど、
　存外真実に沿っている事は多いはずです。」
「ふぅん、
　ああ、でも……
　確かに不思議な出来事がある以上、
　常識で考えたらダメか。
　で、どんな話？」
「うん。それがね……
　昔々、この辺りには神隠しがよくあったみたい。
　夜になれば人知れずに誰かが消える。
　学者先生の話だと、
　この辺りの税が厳しくて、
　夜逃げした人が多いみたいな話だけど、
　どうもね。
　社が作られてからそういう事はなくなったみたい。
　話がずれたね。
　じゃあ、話戻すね。
　で、神隠しにあっていたので、
　村人が恐怖に覚えていると、
　とある旅の巫女がこの地を訪れて、
　この地は不浄に満ちている。
　すぐさま浄化しないといけない。
　そういって、社を建てるよう指示を出したの。
　それで助かるならと村人達はすぐに社を立てようとしたのだけど、
　巫女は３日待てっていったんだって。
　それで——
　村人の一人がみたらしいの。
　巫女が暗闇に潜む何かと対峙し、
　その何かを封じる所を。
　この時に使ったものが多分社の中にあるものだと思うけど、
　壷だとか像だとか……
　一定しないから特定できなかった。
　ごめんね。
　でも、そうして社が出来た時に巫女はその正体について少し語っているの。
　この不浄はこの地に死が満ちていたからだと。
　死者は生者を引き込む。
　この死に満ちた土地の主たる死者は、
　生者を引きずり込む。
　この死を浄化する為には生の営みが必要だ。
　この地に住んで営みを続ける限り、
　この封が解ける事はまずないだろう。
　そんな感じのことを。
　もちろん、本当にその巫女が言った事かは分からないけど……
　参考になったかな？」
聞き入る私達に語る咲良さん。
成る程、
正体こそ不明ではあるが、
巫女の言うとおり相手が死者であれば、
私にも対処できる方法はある。
しかし……
「人の営みがあるはずのこの地で、
　封印が緩むだなんて、
　不思議な話ね。」
「その辺りに関しては多分、
　戦乱や戦争があったせいじゃないかなと思うよ。」
「ああ、成る程な。
　確かに戦乱だの戦争だのがあったら、
　死者が増えるし……
　でも、なんで今頃？
　今は結構な人住んでるよな？」
「それに関しては恐らくは、
　緩んだ封印が、
　時間の経過で封じきれなくなってきているからでしょうね。
　一度緩んだ封印というものは、
　いかに強固でも内側の圧力にだんだん耐えれなくなってきますから。」
「あー、成る程な。
　で、魅月、勝算はどんな感じ？」
「ほぼ１００％どうにかなると思うわよ？
　まぁ、ただ周囲にどう影響するか分からないから、
　やっぱり私一人の方がいいわね。
　全くそれくらいの想定くらいしておきなさいって言いたいわ。
　ま、それじゃさくっと終わらせてくるわね。」
そういって私はすたすたと暗闇の中へと歩いてゆく。
闇の中へと足を踏み入れると、
月の光も届かない闇の中、
ぼんやりと道と社の輪郭がみえる。
私はためらわず社の方へと歩みを進め、
手を伸ばす。
ばちっと一瞬雷光が弾け——
社の中より闇があふれ出した。
闇の正体は、
死に対する恐怖、
怨念や憎念、
死に関わる負の感情の群れ。
数多の時を経てこの地に溢れたそれは、
人を即死させて余りあるだろう。
幸いといえるのは、
たとえ私がどうにかできずとも、
こいつはこの地に縛られている為、
長時間は活動できず、
この地より離れる事も出来ない事だろうか。
さりとて、危険な存在であるには関わらず、
この死ですら余波でしかない。
しなやかな骨の手が私へと伸ばされるように、
本体はなるほど、
昔話の通り死者そのもの。
数多の死を一身に受けたその死者の力はいかほどのものか。
ひょっとしたら、
死の神と呼ばれるに等しいくらいの力であるかもしれない。
そんな絶望的な死が、
死の波動を受けて死んだ私を引きずり込む……
それで、全ては終わり、
この地は再び死の地へと戻る。
——と、なっていただろう。
相手が私でなければである。
生憎、
「私ほど死から遠い存在はないのよね。」
そう呟いて骨の手に手を伸ばす。
たとえ幾千幾万私のこの身を殺せても、
死なない私に意味はない。
幾年幾星霜の時を経たとしても、
ただの一地方の死でしかないものに、
私の受けてきた死を超えれるとは思えない。
だから、私は嗤ってやる。
どんな死でも、私にその死は届かないと。
そして——
「そんなに死の国に生者を引きずり込みたい？
　私を引きずり込みたい？
　ダメよ、そんな事出来ないしさせないわ。
　——あなたが出てくる事が出来ないほどの奈落の底へ、
　あなたの知る死の世界の奥底へ、
　私が引きずり込んであげる。
　あなたはね生者を引きずりこむつもりで、
　私を掴んだのでしょうけど……」
私は死者に喋りかけながら、
その骨の手を掴み、
宣告する。
「——残念ね。
　あなたは引きずり込む手を掴んだのよ。
　二度と這い上がれないほど深くにいるものの手を。
　——さようなら。」
そういってようやく気づいたのか、
逃れようとする手だが、
もう遅い。
引きずり込む。
引きずり込む。
私の側へと引きずり込む。
徐々に崩壊する死者の体と共に、
周囲の闇が月の光によって照らされ、
きえてゆく。
やがて、完全な死者の崩壊と共に、
闇は全て払われて、
月の穏やかな光が私と社を包んでいた——。

「さ、て。
　終わったわよ。」
無事終わったので、三人の下へと帰る。
「思ったより早かったですね……
　その、大丈夫でした？」
「大丈夫というか、
　余裕かしらね。
　まぁ、相性勝ちだと思うわ。
　昔話の通り相手が死者だったしね。」
「流石だね。
　それにしても……
　こうしてみると普通の道なのに、
　いかに恐ろしい存在がいたのか分かるよう……
　凄いというか怖いというか……」
「これ、もし魅月にあってなかったら、
　あれ？この道こんな感じだったっけ？
　って眉ひそめて、
　いつか忘れてしまうんだろうなぁ。
　ううん。
　ま、やっぱこうしてみると魅月は凄いな。
　よし。じゃあ、この後はぱーっとやろう。
　あいてる店は限られてるけど、
　私のおごりだ！
　今日は寝かさないよ！」
「待って、
　私達が先に睡眠不足でつぶれると——」
「あら、
　いいわね。
　じゃあ、寝かせてあげないわ。
　用意も覚悟もいいわね？
　真白さん？」
「もちろんです！
　ぱーっと騒ぎましょう！」
「まぁ、カラオケになるでしょうけどね。
　安定の。」
違いないと私をみて笑う三人。
仕方ない。
私だけ高校生にしかみえないもの。
大人びた服を着れば誤魔化せるだろうけど、
基本的に学生服しか用意してない私が、
今から用意するのは難しい。
睦美さんか咲良さんに借りるという手もあるが、
残念ながら車が無い。
タクシーを拾うにしても、この時間では……
という事だ。
と、すればいける場所はこんな真夜中も真夜中だと、
結局カラオケしかない。
「魅月さんたまにはセーラー服以外着ればいいのに。
　きっと色々似合うと思うんだけど。」
「お気に入りなのよ。
　適度に似合って、
　着慣れていて、
　デザインも悪くない。
　これ以上便利な服も中々無いわよ？」
「老けない魅月だからこそいえる台詞だよなぁ。
　うらやましいというかなんというか。
　ま、魅月からすればセーラー服でさえお洒落って事か。」
本人が気にいってればそれでいい。
そんなくだらない話をしながらカラオケにいく。
結局徹夜になりそうだけど、
ま、折角の肝試しが一緒に楽しめなかったのだもの、
これくらいの楽しみは私にも、
三人にも必要よね。
それにしても、
適度な危険性で、
別に四人でも大丈夫な所、か。
咲良さんに探してもらうのが安定だろうけど、
頼りきりというのもなんだかつまらないわね。
……ふふ、
いい事思いついたわ。
こうなったら私の方で少し調べて探してみるとしましょう。
きっと彼女達ならばどんな恐怖も楽しんでくれるわ。